人生に「if」はありませんが、著名人に、人生の岐路に立ち返ってもらう「もう一つの自分史」。今回はC.W.ニコルさんです。環境保護活動家として知られますが、空手の黒帯を持つ格闘家でもあります。一見すると相反する二つの顔を持つニコルさん。優しいだけでなく、強さもあるから、意志を貫くことができたのでしょう。それには、日本で柔道や空手道の「道」を学んだことが大きいと言います。
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僕は27歳から3年間、エチオピアの山の中で、国立公園をつくる活動をしてきました。20名の勇敢なレンジャーを部下に、山賊や密猟者と闘ったんです。彼らは本気で殺そうとしてきますから、本当の闘いですよ。
本当を言うと、怖かったです。でもその怖さを部下に見せたら信用されない。だから怖さを乗り越えて、先頭に立って戦った。そうするとアドレナリンが出て、怖くなくなる。
自分のなかにも、矛盾があるんです。それは戦争は憎んでいるけれど“闘い”は好きだということ。
4歳まで、英国ウェールズでいつ爆弾が落ちてくるかわからない戦争時代を過ごしました。軍人だった父は第2次世界大戦で帰らぬ人となり、若い母と2人で生きていくのは大変でしたよ。幼いながらに「母を守らなければ」という思いもありました。
一方で、闘うことは嫌いじゃないし、ずっと強くなりたいと思っていました。19歳のとき地元でプロレス界にスカウトされ、リングに上がったこともある。
でも真の「強さ」は、北極探検の経験と空手や柔道で覚えたんです。
――自然や動物を愛する心と、“闘い”をいとわない側面。両方の原点をさかのぼると「森」にいきあたる。ニコルは1940年、英国・南ウェールズに生まれた。幼いころ病弱だったため、激しいいじめにあった。学校では教師も味方をしてくれない。そんなニコル少年は、森へ行くことを覚えた。
僕が生まれたころ、南ウェールズの自然は産業革命によってかなり破壊されていました。でも運の良いことに、僕の家の近くには森があったんです。だから僕は森で5歳から遊んでいた。
森の匂いを感じ、木に触れると、癒やされる気がしました。叔父の一人が羊を飼い、自然のなかで生活をしてもいた。なので僕も幼いころから馬に乗り、犬や猫や動物たちに囲まれていたんです。とにかくずっと自然が大好きでした。