――日本で森を再生させようとしていた時期、同時に故郷の南ウェールズでも、やはり森を復活させようという動きが高まっていると知った。勇気づけられ、迷いを振りきって、林野庁などともケンカをしながら活動を続けた。ファイティングスピリットと自然を愛する心。一見すると相反する側面を両輪にして、自分の見つけた「道」を歩んでいる。
2008年には英国チャールズ皇太子が視察に来てくれましたし、16年には天皇、皇后両陛下がいらしてくださった。「本当に環境保護活動家として理解してもらえるようになった」と思えたのは、このときからです。
いま僕が一番心配しているのは、子どもたちです。みな自然を知らないし、虫がきらい。自然のなかで遊ばないし、親世代も自然を知らない人が多い。そのまま成長すると、人を愛することができない人間になってしまう。
海外では「自然欠乏症候群」という病名ができました。最近の研究から、小さいころから自然のなかで五感を使わないと、脳の成長のバランスが変わってしまうことがわかったんです。それによって「人とコミュニケーションが取れない」「空気が読めない」「判断力がない」といった特徴が表れてくる。アレルギーになったり、ストレスで病気になったりする子どもたちも増えています。
私の最後の仕事は、こうした状況と闘うことですね。
――95年に日本国籍を取得してから20年以上がたつ。ファイターでありナチュラリストでもあるニコルにとって、日本はどんな存在なのか。
日本は「受け入れる国」だと思います。あんなに林野庁や環境庁(現環境省)や建設省(現国土交通省)とケンカしてきたのに、ほかの国だったらそんな人に国籍なんかくれないでしょう(笑)。
僕は小泉先生から「真の強さとはなにか」を教えられた。強く優しく礼儀正しい素晴らしい日本人に出会い、柔道や空手道の「道」を学んだから、いま僕はここにいるんです。そうでなかったらどこかで命を落としていたか、ものすごい嫌われ者になっていたでしょうね(笑)。
僕は日本と出会って、日本に来て本当によかった。自分を日本人ではなく「ウェールズ系日本人」だと思っていますが、でも間違いなく日本の“市民”。そのことを誇りに思っています。(聞き手/中村千晶)
※週刊朝日 2019年1月4日号‐11日合併号