高齢者が長年、服用していることが多い脂質異常症の薬と睡眠薬。だが、中には副作用や薬効が残るために生じるデメリットが大きく、高齢者には慎重に投与すべき種類のものがある。「脂質異常症」「不眠症」について、高齢者が治療薬とどう付き合うべきか専門医に聞いた。
■高血圧
「高齢者高血圧診療ガイドライン」では、血圧を下げる目標値は、75歳を境にして異なる。自治医科大学附属病院循環器内科教授の苅尾七臣さんは、「74歳までは若いころと同じように低めの血圧を目指し、その後は血圧の変動などを見ながら調整する」という。
だが、最初に見直すべきタイミングは、それよりも早い65歳前後を勧める。その年齢で人生の節目を迎える人が多く、血圧は環境変化などのストレスでも大きく変動するからだ。
「65歳は一般に定年退職を迎える年齢。それを機に血圧が下がる人、上がる人がいるのです。夫が定年を迎えた妻も同じ。退職直後ではなく、半年ほどしてから見直すのがいいでしょう」
ほかにも、配偶者との離婚や死別、引っ越し、入院、家族の介護なども同様だ。要介護状態になった場合は薬を減らすことを前提に考える。
高齢者の血圧は、上の血圧(収縮期血圧)の振れ幅が若いころより大きいのが特徴。血管の柔らかさが失われ、動脈硬化が進むからだ。そのため、高齢者の血圧のコントロールは低血圧にも気を配る必要がある。とくに、立ち上がったときに生じる「起立性低血圧」や、食事の後に起こる「食後低血圧」に注意したい。
「血圧は常に一定ではなく、自律神経の働きなどで一日のなかでも変動します。血圧が低くなりすぎると脳や腎臓などの臓器に流れる血液の量が足りなくなる、いわゆる“虚血状態”に陥りやすいのです」(苅尾さん)
虚血状態はどんな問題をもたらすのか。2015年にアメリカの医学雑誌「The New England Journal of Medicine」に発表された「SPRINT試験」では、上の血圧の目標を120mmHg未満(単位は以下略)にした群と140未満にした群とで比較。心筋梗塞や脳卒中の発症率や死亡率は120群のほうが低かったが、低血圧や腎不全などの副作用の発生率は120群のほうが高かった。高齢者の低血圧が招くふらつきは、転倒・骨折のリスクになる。