「私の場合、高齢の患者さんでこうした薬を使っているときは、減量したり、低血糖を起こしにくいDPP‐4阻害薬(ジャヌビア、グラクティブなど)という種類などに変えたりします。ビグアナイド薬(メトグルコなど)は安全で使用頻度も高いのですが、後期高齢者には使いにくいと考えています」(野田さん)
実は、高血糖だけでなく、低血糖も心筋梗塞などの病気の発症リスクを高めることが、野田さんらの研究で明らかになっている。
「血糖値が下がると血圧が急に上がって脳出血が起きたり、動脈硬化で生じた血栓が飛んで脳梗塞の原因になったり、血液中のカリウムのバランスが崩れて致死性の不整脈が起きたりします」(同)
ほかにも、国内外の報告によると、低血糖を起こした高齢者の認知症の発症リスクは、低血糖を起こさない患者に比べて1.5~2.5倍。このことからも過度に厳格な血糖コントロールは行わないほうがよいという。
低血糖の代表的な症状は、空腹感や手の震え、動悸、冷や汗、昏睡などだが、高齢者は症状に気付きにくかったり、寝ている間に起こったりすることもある。
「糖尿病の治療目標は妊娠といった人生のステージや年齢で違ってきます。70代からは低血糖を防ぐことのほうが大事だと考え、薬の量を減らすなど、方針転換をしていきます」(同)
具体的には、目標とするHbA1cの値を元気な高齢者では7%台前半、一般の高齢者では7%台後半と、「管理目標値の7%未満より少し高めでもよい」と野田さんは考える。過去に心筋梗塞や脳梗塞を起こした人も、基本的に緩めのコントロールでよいそうだ。
「確かに一度、心筋梗塞などを起こした患者さんは、再発のリスクが高い。しかし、そういった方の血糖コントロールを厳格にしても、再発はそれほど抑えられないことが多くの研究でわかっています。再発の予防には、抗血小板薬(血液をサラサラにするアスピリンなど)を使うことが重要と考えています」(同)
(本誌・山内リカ)
※週刊朝日 2018年11月2日号 より抜粋