これで個々人の「数字」に基づいた老後資金の必要額を求める計算式が完成した。支出・収入双方の全体額を計算すれば、その差額が自助努力額になる。
考え方を理解していただきたかったので詳しく説明したが、要は「最終年収」を推計して「退職後生活年数」を自分で決め、公的年金や企業年金の見込み額が確認できれば計算できてしまうのだ。しかも退職後生活年数以外は客観的な数字なので、積み上げ型のように裁量が入り込む余地はない。
だからなのだろう。野尻所長によると、欧米では大学やシンクタンクが同様の考え方に基づいて老後資金を計算しているという。
「公的年金額をどのぐらいのレベルにするかを政策レベルで議論するさいに老後家計のモデルが必要になるので、研究者らが計算して数字を出しているのです。肝心の目標代替率は、アメリカでは70~85%、英国では3分の2とするケースが多いようです」
ところが、である。欧米で主流とされる、この計算法で計算すると、かなり高めの数字が出てきてしまう。例えば、年収600万円、目標代替率68%、夫婦の月額年金受給額24万円で95歳まで生きるとして計算すると、自助努力額は「5640万円」にもなる。
もっとも、これは60歳代前半の労働収入は計算に入っていない。
「この金額すべてを60歳で準備する必要はありません。仮に資産を3%で運用できるとすると、60歳時で必要なのは約3900万円に減ります。60歳代前半は再雇用などで働けば、さらに低くなります」(野尻所長)
個々人ごとに自助努力額が違ってくるのが、この計算法の前提だったが、それは次のようなケースを考えてもわかる。50歳代後半で、すでに子供が独立した家計があったとする。
例えば、Aさんは順調に管理職をこなし、役職定年も適用されずに年収が下がらないまま60歳を迎えるとする。子供が独立した分、基本生活費は減るし、それまで教育費として使ってきた費用はそのまま老後資金用の貯蓄に回せるはずだ。一般的に言われる50歳代後半の「最後の貯め期」を存分に活用でき、かつその状態だと目標代替率もかなり低く見積もれるはずだ。