退職後、当面は生活保護を受給していたというが、携帯電話料金や光熱費を支払うと、手元に残るのは4万円だけ。食費が捻出できなくなると、水を飲んでしのいだという。ブラック企業ユニオンが会社と交渉を行い、未払い分の残業代と慰謝料が支払われることになった。

 人権のうえでも格差の解消が不可欠だが、いま貧困を自己責任と考える人が増えている。格差拡大を容認し、所得再分配を支持しない傾向が強まっている。前出・橋本氏が嘆く。

「資本家から労働者階級までほとんど横並びで、所得再分配を支持していません。アンダークラスに対する冷淡さを示しています。特に、いまの自民党支持のコア・グループは大変なことになっていて、自己責任論支持が強い人の比率が6割、排外主義が強い人の比率が7割を超えています」

 格差を放置していれば、社会全体にさまざまな弊害が生じる。子どもを持つことができないアンダークラスが人口の一定比率を占めることになるから、少子高齢化も加速する。そればかりか、不平等な社会は貧困層の健康レベルを低下させるだけではなく、他の階級の人々の平均寿命も引き下げられるのだという。

「格差が拡大すると、人々の間に共感と連帯が失われます。お互い助け合う機会が減って福祉の水準が下がり、精神的ストレスが高まるのです。その結果、豊かな人々も含めて健康状態が悪化し、死亡率が上昇するという研究が定説になっています。経済的苦境から自暴自棄になり、犯罪に駆り立てられる人々も増加します」(橋本氏)

 格差の拡大に歯止めをかけるのは、喫緊の課題である。橋本氏がその解決策を提示する。

「現在、生活保護の捕捉率はわずか15.3%と異常に低い。自治体が生活保護の申請者を追い返す“水際作戦”をやるのは、生活保護費の財源の4分の1を自治体が負担しているからです。全額を国費負担にすれば、自治体は地域経済に寄与することになるから、貧困層を探し出しても生活保護を受給させるようになるはずです。一方で、富裕層の金融資産に課税する、相続税率の引き上げなど、所得再分配政策を推進する必要があります」

 安倍政権が本気で格差社会を是正する気があるならば、やるべきことは山積しているのである。(本誌・亀井洋志)

週刊朝日  2018年7月20日号より抜粋

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