だが、有期雇用から無期転換されたとしても、非正規と労働条件が変わらず低賃金のまま据え置かれることが少なくない。まさに、去るも地獄、残るも地獄なのである。実際、正社員が“隠れアンダークラス化”する現象も起きているという。ブラック企業ユニオンの坂倉昇平氏が解説する。
「正社員も二極化し、非正規に近い形で働かされる人が増えています。就職先がブラック企業だったため、新卒2~3年で退職を余儀なくされる人が続出しているのです。会社のほうも数年で辞めることを前提としており、長時間労働で低賃金という労務管理で、消耗品のように使い潰しています。最初から月給に残業代を50~60時間上乗せしているケースさえある。過労死の質も変わってきていて、90年代までは中堅の管理職が亡くなっていたが、近年では20代の若い人にも過労死が起きています」
大島遼さん(26歳・仮名)は14年3月に大学卒業後、不動産会社に就職した。埼玉県内にある支店に配属され、営業職を担当することになった。定時の勤務時間は午前10時から午後7時までだったが、残業時間が過労死ラインを超える月100時間以上に上った。
朝は定時の1時間半前に出社することが事実上ルール化されていたが、早く来るのは残業ではないという屁理屈がまかり通っていた。申告できる超過勤務は、月に30時間前後までという不文律もあった。週2日ある休日も不動産物件の下見をさせられたり、宅建(宅地建物取引士)の専門学校に通わされたりした。
職場はストレスで充満し、先輩社員から「おまえら新人は、まだ会社に利益を上げられない寄生虫だ」などと、たびたびパワハラ発言を受けた。入社からわずか4カ月後、病院で適応障害と診断され、休職した。大島さんが振り返る。
「それから1年間、休職と復職をくり返しましたが、もう限界でした。呼吸困難になって救急搬送されるほどでした。会社からは欠勤が6カ月を超えると、就業規則の規定により退職させると告げられ、結果的に退職せざるを得ませんでしたが、会社は違法な時間外労働をさせたとして、労働基準監督署から是正勧告を受けることになりました」