お婆さん、自分のご飯を食べ終わってしまうと、身を乗り出さんばかりにして、こちらの一挙手一投足に一層熱い視線を送ってくる。

 そして、大センセイが最後のひと切れを食べ終わったのを見届けると、ついに話しかけてきたのである。

「あなた、外国人なのにご飯が好きなのねぇ」

 向かいに座っていた編集者が、ぷっと噴き出した。

「えっ、私……」

 訂正しようと思ったが、お婆さん、伝票を握りしめて席から立ちあがってしまった。そして、テーブルの脇を通過しながら、

「外国の人がこんなに日本のご飯を好きになってくれるなんて、嬉しいわねぇ」

 とダメ押しの一発をかましてくれたのだった。

「あは、あはははっ」

 大センセイ、日本語がよくわからないフリをして、お婆さんの思い込み攻撃をやり過ごすしかなかった。

 もしも、

「お言葉を返すようですが、私は日本人です。日本人がご飯を好きなのは、珍しいことではないでしょう。勝手に外国人だと決めつけないで下さい」

 と反論をしたら、

「あらまっ、褒めるつもりで言ったのに、そんなふうにおっしゃるなんて!」

 などという気まずい事態になったかもしれない。思い込みとは、かように厄介なものなのである。

 それにしても気になるのは、お婆さんがいったいナニ人と勘違いしたかである。編集者の意見を聞くと、

「ヤマダさん、地黒だから」

 とニヤニヤしながら言う。

 いったいナニ人に間違えられたら、嬉しかっただろうか。

週刊朝日 2018年3月30日号

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