巷では香りつきの洗剤や柔軟剤などが好まれ、“香りブーム”が続く一方で、他人の「香り」を不快に思う人がいる。さらには、この前までいい香りだと愛用していたのに、体調が悪くなるのでもう使えない、といった訴えも。においに関するトラブル“香害”の背景を探った。
「他人の柔軟剤の香りで息ができなくなった」「駅のホームで制汗剤を使われて、めまいがした」……。
昨年7月と8月に行われたにおいのトラブルに関する電話相談「香害110番」。NPO法人日本消費者連盟が実施し、相談件数は2日間で65件、メールやファクスを含めると213件に及んだ。反響の大きさに同連盟の杉浦陽子さんは、こう話す。
「あの2日間は電話がずっと鳴りっぱなしでした。涙ながらにつらい気持ちを話される方もいて、事の深刻さを改めて実感しました」
今回の相談で、もっとも多かった“苦情”が、「洗濯物の香り」だ。
「洗濯物を干したときに漂う洗剤や柔軟剤の香りです。『隣人の洗濯物の香りで息苦しくなる』『くしゃみ、頭痛、吐き気で窓が開けられない』といった相談がありました」(杉浦さん)
柔軟剤は本来、洗濯物の洗い上がりをよくしたり、静電気を防いだりするために用いられてきたものだ。だが、その後、消臭機能が加わり、さらに独特の強い香りを放つ外国製品が一部で人気となったことから、香りづけにも重きが置かれるようになった。こうした製品の売り上げは好調で、業界団体の日本石鹸洗剤工業会の製品販売統計によると、2016年の柔軟剤の販売量は前年比119%、36万5千トンにのぼる。
香りブームについて、においと心理の関係を研究する東北大学大学院文学研究科教授の坂井信之さんは、
「体臭を個性として捉え、香水をつけることで自己主張をしてきた西洋と違い、日本では近代以降、香りを身につける文化はほとんどありませんでした。むしろ集団の和を重んじる文化のため、個性を消すために、体臭を含む強いにおいは敬遠されていたのです」