15年前、「思春期のためのラブ&ボディBOOK」が回収されなかったら……(※写真はイメージ 撮影/写真部・松永卓也)
15年前、「思春期のためのラブ&ボディBOOK」が回収されなかったら……(※写真はイメージ 撮影/写真部・松永卓也)
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 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は「毛ジラミ」という言葉を聞いて、思春期の中学生用に作られた“性”読本を思い出したという。

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 ネット通販業者の知人から「毛ジラミ」の薬の売れ行きが、ここ数年、すごく伸びていると聞いた。半信半疑で大手通販サイトを調べると、確かにアマゾンでは毛ジラミの薬に「ベストセラー」マークがついていた。さらに「毛ジラミ」を検索すれば“夫の陰毛に虫がいます、浮気でしょうか?”“かゆいのですが、毛ジラミでしょうか?”といったお悩みが次々に出てくる。

 確かに最近、婦人科系の医師から「性感染症で来院する人が増えている」とか、性産業で働いている女性が「客に梅毒や淋病をうつされる女性が多い」などと教えてくれることが続いていたけれど、まさか「毛ジラミ」の薬がアマゾンでベストセラー印がつくほど「増えている」とはね。梅毒とか毛ジラミとか、いったい、いつの時代の話よ。

「毛ジラミ」で思い出したのは、2002年に厚生労働省所管の財団法人が中学生向けに作成した「思春期のためのラブ&ボディBOOK」だ。性経験の低年齢化や10代の妊娠中絶が社会問題になっていた当時、具体的な避妊方法や性感染症の知識を伝えるための貴重な試みだった。ところが、山谷えり子等、保守系議員が激しい批判を繰り広げ、本は、あっという間に回収され絶版になった。曰く「寝た子を起こすな」という論理だ。

「ラブ&ボディ」だけではない。00年代半ば、性教育やジェンダー関係の教育は激しい批判の対象になっていた。当時、幹事長代理だった安倍さんは、その先頭に立ち、ジェンダー平等を推進する人々を「ポル・ポト派を思い出す」など無茶な批判を真顔でしたり、「慰安婦」問題に関わっている人たちを「北朝鮮の工作員」と発言したこともあった。安倍さんのやり方は、昔から変わらない。事実とかけはなれた誹謗中傷に、人に嫌悪や恐怖を植え付けるような印象操作。安倍さんの心の中では、常にJアラートが鳴り続けているのかもね。

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