しかし、益軒がさすがなのは、これだけではなく、病気になった後の養生についても語っているところです。生老病死というように、病も人生の一つのステージに違いありません。生きとし生けるもの、誰もがこの生老病死をくぐり抜けることになります。この病のステージ、あるいは死のステージで、人間としての尊厳を全うできるようにサポートするのが医療なのです。
病のステージでの養生を益軒は「病をうれいても益がない。ただ養生の道を堅く守れば益がある。もし死に至る病だったとしても、それは天命の定めるところだから、うれいても益はない。それで苦しむのはおろかなことである」(巻第六の7)と言い切ります。
死が目の前にあったとしても、日々、生命のエネルギーを高めて、死ぬ日を最高にする。その勢いを駆(か)って死後の世界に突入するというのが「攻めの養生」です。たとえ病のステージにあっても変わりはありません。養生の道は平坦すぎるよりは多少の困難を伴った方がいいのです。憂いたり苦しんでいる暇はありません。
益軒はそこのところを、よくわかっていました。
※週刊朝日 2017年8月18-25号