西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。帯津氏が、貝原益軒の『養生訓』を元に自身の“養生訓”を明かす。
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【貝原益軒 養生訓】(巻第六の7)
病ある人、養生の道をば、かたく慎しみて、
病をば、うれひ苦しむべからず。
憂ひ苦しめば、気ふさがりて病くははる。
養生訓の巻第六には「慎レ病」(病を慎む)という項目が設けられています。どういう意味なのでしょうか。
「病なき時、かねてつつしめば病なし。病おこりて後、薬を服しても病癒(いえ)がたく、癒(なお)る事おそし」(巻第六の2)と説いていますから、ひとつには、病気になる前に用心しなさいという予防医学の教えです。
「古詩にいわく、安閑な時に病苦の時を思え。つまり、病がなくてのんびりしているときに、病気のことを思い出して、その苦しみを忘れずに慎んでいれば、病気にならない」(巻第六の1)とも語っています。
それだけではなく慎病では、病気になってしまったときの、心構えについても説いています。
「病ある人、養生の道をば、かたく慎しみて、病をば、うれひ苦しむべからず」(巻第六の7)
広辞苑によれば、「つつしむ」(慎む・謹む)は「包む」と同源で、自分の身を包み引きしめるの意があるとのことです。「養生の道をば、かたく慎しみて」とは、養生の道を堅く守るという意味でしょう。
益軒はいったん病気になってしまったら、養生に専念して、病気のことをくよくよ考えるなというのです。憂い苦しんでいると気持ちがふさがって、よけいに病気が悪くなると続けます。
「病を早く治そうとして、いそげば、かえって病が重くなる。養生をおこたりなくつとめて、治ることをいそがず、自然にまかすべし」(巻第六の8)とも語っています。
益軒がまず説いている「かねてつつしめば病なし」は、どちらかと言うと「守りの養生」と言えます。身体を労(いた)わって病を未然に防ぎ、天寿を全うするといったものです。養生というと、こちらの方をイメージする人が多いのではないでしょうか。