「透析液を自分で交換する必要があるので、これまでは若い人が腹膜透析を利用していました。近年は訪問看護ステーションのサービスを利用した高齢者の実施も増えています」(阿部医師)
夜、寝ている間に、透析液を自動で交換するAPD(自動腹膜透析)も普及し始めている。家庭用プリンターほどの大きさの特殊な機器が必要だが、寝る前に回数設定をしておけば、就寝中に透析液を交換してくれる。
ただし、夜間のAPDのみで対応できるのは尿量が1日800ミリリットルほど確保されているような、比較的早期の患者や、腹膜透析を初めて実施する患者だ。
「APDを始めても、尿量が減ってきたら、昼間にCAPDを追加します。さらに尿量が減ってきたらCAPDの回数を増やす、といった患者さんの状態に合わせて対応することが必要になります」(同)
通院が難しい患者に便利なAPDとCAPD。だが、腹膜は徐々に劣化するため、5~8年で血液透析に移行する必要がある。
「腹膜透析が可能なうちに、血液透析を併用する方法もあり、2010年に健康保険の適用となっています。血液透析が必要になっても、腹膜透析も継続することで通院回数を減らして、自分の時間を確保することもできるわけです」(同)
東京都在住で料理店経営の横山正さん(仮名・63歳)は、腎不全で人工透析が必要だったが、通院するのが難しく、11年4月に阿部医師のもとを訪れた。
阿部医師は腹部にカテーテルの挿入手術をおこない、腹膜透析の方法も指導。横山さんはAPDから始め、2年後には腎機能低下に合わせて、CAPDを加えた。就寝前と昼間に1回、透析液を交換した。
16年7月、腹膜透析だけでは対応できなくなり、血液透析も加えるようになった。現在は夜間のAPDのほかに昼間にCAPDを2回おこない、血液透析の通院は週1回にとどめることができている。
阿部医師は言う。
「腹膜透析の利点は自宅や職場、旅行先でもできること。仕事が忙しい人や、近くに透析クリニックがない人などは、うまく活用してほしいです」
※週刊朝日 2017年5月5-12日号