人間の痛覚伝達経路には痛みを脳に伝える「上行性疼痛伝導系」とその痛みを抑制する「下行性疼痛抑制系」がある。痛みの刺激が脳に伝わると、脳から快楽を司るドーパミンが出て、痛みを抑制する神経の働きを活性化させるセロトニンやノルアドレナリンが分泌される。それにより脊髄にある脊髄後角という部分で痛み信号が打ち消されるため、通常、人は必要以上に痛みを感じることがない。有害な痛み情報の伝達にブレーキがかかるしくみになっており、このブレーキの役割をしているのが「下行性疼痛抑制系」だ。いわば自己鎮痛メカニズムが働いているわけである。

 ところが慢性腰痛の人においては、セロトニンやノルアドレナリンが分泌されてもそれを再びからだに取り込んでしまう「再取り込み」が起こるため、ブレーキが働かず脳に痛みが伝わってしまう。デュロキセチンはこの再取り込みを阻害して、セロトニンやノルアドレナリンが作用できるようにする薬だ。

 痛みを引き起こす物質が作られるのを抑えるロキソプロフェンや、脳の中枢神経に作用して痛みを抑えるアセトアミノフェンとは、作用の仕方が違う。

「慢性的な不安やストレスは下行性疼痛抑制系の働きを弱めると考えられています。林さんの場合も仕事のストレスで一時的に下行性疼痛抑制系が減弱し、痛みを強く感じていたのでしょう」(同)

 林さんに処方されたデュロキセチンは1日1回服用するカプセルで、1週目は20ミリグラム、2週目は40ミリグラム、3週目以降は60ミリグラムと増量した。60ミリグラムを続けているうちに痛みがやわらぎ、林さんは通院するたびに表情が明るくなり、毎日、会社に出勤できるまでに回復した。

 慢性腰痛は一般に3種類に分けられている。【1】侵害受容性疼痛(からだへの刺激によるもの、椎間関節のねんざや打撲など)【2】神経障害性疼痛(神経の構造の一部に障害が発生し痛みを作り出すもの、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など)【3】心因性腰痛(神経から伝わる痛みはほとんどないのにストレスや不安から痛みが増幅してしまう、非特異的腰痛を含む)の三つだ。

 ただ、実際には複数の原因が重なっている場合が多く、いつ、どのようにして痛みが始まったのか明確でないことも珍しくないという。精神的なストレスや不安から痛みを感じる場合も多いことがわかっている。

週刊朝日 2017年3月17日号より抜粋

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