宗教学者で東京大学名誉教授の島薗進さんは、コロナ禍の別れは、孤独の意識をより深めることになったと話す。

「例えば、同じように多くの人が亡くなった東日本大震災では、死者を共に思い、悲しみへの共感がありました。しかし、コロナ禍では共に弔うことができにくくなり、孤独の意識が一段と深まっています」

 だが、人を弔う気持ちが弱まったわけではない、むしろ強まったという。

■二元論を超えたものの見方を広めていくこと

 現代は家族そのものが小さくなり、一生の間、共に長い時間を過ごす親しい人は少なくなってきている。人との関係は「束」ではなく、一本の糸が数本あるようなもの。死によってその一本が断ち切られた時の喪失感はさらに大きくなった。孤独のつらさ、孤立することへの恐怖も強まり、普段から死を意識するようになったという。

 いまそうした人々の眼差しは、宗教を前提としないヨガや瞑想などを通したスピリチュアリティー(霊性)に注がれている。そのための「集い」や「場」がもたれ、SNSではメッセージのやり取りがされる。スピリチュアリティーは宗教とどこかでつながっていて、宗教に対する関心が宿っている。スピリチュアリティーを深めていくと、宗教的なものに行き着くと島薗さんは話す。

「深い悲しみ、苦しみ、そして死。こうした人間の力の限界を強く意識するリアリティーに直面した時に支えになるのは、無限のもの、時を経ても変わらないもの。それが、人類の長い歴史の中で育まれてきた宗教です。仏教やキリスト教、神道など2千年以上の長い歴史の中で培われてきた宗教の精神性が、必要になってきます」

 コロナ禍が終息を迎えても、苦しみを抱える人は今より増える可能性はある。災害も相次ぐ。島薗さんは、宗教は時代を超え繰り返し再発見されるものを蓄えていて、重要性はより増していくだろうと語る。

「その時に宗教者は、かつてのように宗教の教義を説くのではなく、宗教を土台にした、押しつけでない知恵を示していくことが大切です。信仰を持たない人に対しても、その人が直面している苦しみや悲しみにどのような姿勢で向き合えばいいかを示す形で表すことが求められます。それが、現代社会において宗教が持つ本来の役割に近づくことでもあります」

 今、ロシアのウクライナへの侵攻で、世界の分断が深まっている。神谷町光明寺の僧侶の松本さんは、そんな時代にこそ宗教の知恵が求められていると話した。

「右か左、善か悪といった二元的なものの見方が優勢になっています。しかし、そうした二元論のすれ違いが拡大し行き詰まった結果、ウクライナで戦争が起き『分断された世界』が現れました。この分断された世界を乗り越えるには、仏教に限らずキリスト教でも神道でも、およそ歴史のある宗教の一人一人の宗教者が二元論を超えたものの見方を広めていくことが必要です。それができるのが宗教であり、現代における宗教の役割だと、私は思います」

(編集部・野村昌二)

AERA 2023年2月20日号

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