AERA 2023年2月20日号より
AERA 2023年2月20日号より

■コロナ禍は「孤独」の意識をより深めることに

 目に見えないウイルスは、私たちの心にどのような影響を及ぼしたのか。

 浄土真宗本願寺派「神谷町光明寺」(東京都港区)の僧侶で、東京大学卒業後に仏門に入った異色の宗教家の松本紹圭(しょうけい)さん(43)は、こう語る。

「コロナは私たちの慣習を断ち切る大きな『壁』となったと思います。お盆になればお墓参りに行き、三回忌、七回忌とあわせて法事を行います。そうした慣習を問い直す力がコロナにはあったのではないかと。その意味で、コロナ禍は慣習の危機をもたらし、慣習の危機は孤独の問題に直結していくと思います」

 孤独とは、人との繋がりがない状態。人との繋がりは何かと言えば、目に見える存在同士の関わりとは限らず、「生きている」実感。例えば、墓地を訪れると墓石を前に大切な亡き人の存在を身近にリアリティーをもって感じられることだと言う。

「目に見えるものにさえ共通言語を見いだすことが難しい現代こそ、目に見えない存在との関わりを問い直す他にはない機会だと思います。それを失うということは孤独の問題に直結していくのではないかと、私は見ています」

 コロナによって慣習が断ち切られる危機を覚えた松本さんは20年4月、音声メディアのポッドキャストで「テンプルモーニングラジオ」を始めた。平日の朝6時、松本さんがゲストと語るトークが配信される。再生回数は50万回を超え、メジャーなポッドキャストに成長した。MBA(経営学修士)を取得し、寺院運営を考える「未来の住職塾」を開講して経営学の視点から宗派を超えた寺の改革に挑んできた松本さんは、こう話す。

「一つのお寺で、あるいは住職一人の頑張りでお寺を経営していくことは難しくなってきたことは確かにあります。お寺の今までの運営のあり方を見直し、若い人の力も入れていくことが大切です。また、お寺はどちらかと言えば男性社会なので、女性にもっと意思決定の部分に入ってもらうことも必要になってくると思います」

 コロナ禍は、死との向き合い方も変えた。厚生労働省の集計では、新型コロナウイルスによる国内の累計死者数は、2月1日時点で約6万8千人。遺族は最後の別れが認められず、密封された「納体袋」に包まれた遺体に触れることさえできない──。1月からは、遺体は適切な処置をすれば納体袋で包まず通常の葬儀ができるようになったが、別れの機会が制限されていることに変わりはない。

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