上野千鶴子(社会学者)うえの・ちづこ/1948年、富山県生まれ。東京大学名誉教授、立命館大学教授、認定NPO法人WAN理事長。日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニアで、近年は介護分野に研究領域を拡大(撮影/写真部・加藤夏子)
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上野千鶴子(社会学者)
うえの・ちづこ/1948年、富山県生まれ。東京大学名誉教授、立命館大学教授、認定NPO法人WAN理事長。日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニアで、近年は介護分野に研究領域を拡大(撮影/写真部・加藤夏子)
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新田國夫(認知症在宅医)にった・くにお/1944年、岐阜県生まれ。帝京大学病院第一外科・救急救命士センターなどを経て、90年に新田クリニックを開院、在宅医療を開始する。全国在宅療養支援診療所連絡会会長(撮影/写真部・加藤夏子)
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新田國夫(認知症在宅医)
にった・くにお/1944年、岐阜県生まれ。帝京大学病院第一外科・救急救命士センターなどを経て、90年に新田クリニックを開院、在宅医療を開始する。全国在宅療養支援診療所連絡会会長(撮影/写真部・加藤夏子)

 おひとりさまが住み慣れたわが家で最期を迎えるには――。認知症の在宅医療における第一人者・新田國夫さんは、ベストセラー『おひとりさまの老後』の著者で社会学者の上野千鶴子さんとの対談で、ケアマネージャーの選び方について指南している。

*  *  *
 
新田:僕が診た例では、こういうのがあります。認知症の女性が一人暮らしをしていましてね、心配した娘が海外から戻ってきて同居を始めた。周りもよかったと安心していた矢先、その患者さんが浴槽の中に閉じこもったんです。それで、娘とケアマネが相談して「病気が進行しているから、施設にお願いしようか」ということになりました。

上野:それは違うでしょう。

新田:そう。僕は娘さんを呼んで、「あなたがホテル住まいをしなさい」と言った。そうしたら案の定、患者さんの状態が安定したんです。

上野:若いほうが出ていけばいいんです。同居がストレスになることもあります。

新田:むしろ外から見守ることのほうが大事で、一人、二人、根気よく対応する人がいればいいんです。

上野:その役割を果たすのがケアマネです。わたしの知っているあるケアマネは、携帯電話の番号を教え24時間対応で、時間外でも料金を取りません。「利用者さんの不安に応じるのも一時のこと。いずれ治まります」とおっしゃっていました。そういうケアマネばかりじゃありませんが。利用者や家族から「きちんとしたケアマネを選びたい」と相談されたら、新田さんはどう助言なさいますか?

新田:「『わたしを自宅で看取ってくれますか?』と聞いてみてください」と言います。病院で看取ることを前提にしているケアマネもいますからね。認知症の患者さんでも早期ならそう尋ねられると思います。

上野:本人の意思というと、すぐに「“死の自己決定”ですね」と言われます。がんの場合なら、ぎりぎりまで意思表示できますが、「認知症ではむずかしい」という意見もあります。

新田:現実的には、死の自己決定はむずかしいでしょう。不安になった家族やケアマネが救急車を呼んでしまうからです。そうなったら、本人はいくら「医療行為は嫌」と思っていても、かなえられない。救急隊には病院に運ぶ役割があり、それを待っている医師は救命に尽力しますから。

上野:それなら、救急車を呼ばなければいいだけのことでしょう。一人暮らしのおひとりさまは楽勝じゃありませんか(笑)。

新田:確かにそうですね。

上野:新田さんは著書『安心して自宅で死ぬための5つの準備』で、わたしの著書を引用してくださっています。“訪問介護で来たヘルパーが「あら、上野さん息していないわね」っていうのがいい”と書いたところ、新田さんは、“それは孤独死でも何でもなくて、人の死として当たり前のこと”と。そう言ってくださったことがうれしくて。

新田:よく「独居を在宅でみるのはむずかしい」と言いますが、それが当たり前にならないといけない。今後はもっとおひとりさまが増えるわけですから。そもそも、独居だろうが、家族と同居だろうが、僕が考えるのは、「最後は本人の意思によらなければいけない」ということです。

週刊朝日  2016年1月1-8日号より抜粋