一緒に記されている調理法には、ご飯と一緒に<とろ火で煎りつけながら混合せます>と書かれている。現在の簡単調理商品のさきがけみたいでもある。
「他にもタンシチューやビーフシチューの缶詰を出していました。かなり時代を先取りした商品でしたね」
と秋本さん。
トマトケチャップや鶏肉が身近になるよりも前の時代。チキンライスの素は、明治屋や白木屋などで扱われる高級商品だったようだ。
富岡商会に残る昭和7年度の「販売統計」によると、ハムライスの素が885箱に対してチキンライスの素が1207箱とチキンライスのほうが売れている。逆転現象が起こった。ブックレットには、<そしてハムライスはいつの間にか姿を消してしまったのである>と書かれている。
ハムライスは、幻の料理となり、チキンライスは、戦後を駆け抜けていく。
(太田サトル)
※週刊朝日 2015年8月28日号