14日、福井地裁は関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を認めないとの決定をした。しかし、ジャーナリストの田原総一朗氏はその判断に疑問を呈する。

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 関西電力高浜原発3、4号機の安全対策が不十分だとして福井、京都、大阪、兵庫の住民9人が再稼働差し止めを申し立てた仮処分で、福井地裁の樋口英明裁判長は、4月14日に再稼働を認めないとの決定をした。原子力規制委員会の新規制基準は「緩やかにすぎ、安全性は確保されない」というのである。

 この福井地裁の仮処分決定を、朝日新聞は15日の社説で「司法の警告に耳を傾けよ」と大きく報じ、毎日新聞も「司法が発した重い警告」との見出しで、「いくつもの問題を先送りしたまま、見切り発車で再稼働をすべきでないという警鐘は軽くない」と力説している。

 それに対して、読売新聞は「規制基準否定した不合理判断」であると断じ、「関電が決定を不服としているのは、もっともである」と強調している。

 さらに「産経新聞」は「高浜異議申し立て 迅速に決定を覆すべきだ」とまで書いている。

 長年の安全神話を破るように起きた福島第一原発の深刻な事故は、国民の多くに原発不信、というよりも、いわゆる「原子力ムラ」への根源的な不信感を抱かせた。その根源的不信感を代弁しているのが朝日新聞の社説である。

 
「関電は決定に対し、不服申し立ての手続きをする意向だ。もちろん規制委も電力会社も、専門的な立場から決定内容に異論があるだろう。

 だが、普通の人が素朴に感じる疑問を背景に、技術的な検討も加えたうえで『再稼働すべきでない』という結論を示した司法判断の意味は大きい。裁判所の目線は終始、住民に寄り添っていて、説得力がある」

 この朝日の社説の意図はよくわかる。ただ、原子力規制委員会は福島原発の事故後に厳格化された新規制基準によって、1年7カ月にわたる安全審査を行って適合していると判断したのである。

 規制委は、自民党の多くの政治家や電力会社関係者からは「世界一厳しい」「ホンネは反原発ではないか」とさえ言われている存在である。その規制委の新基準を、福井地裁は「緩やかにすぎ、これに適合しても原発の安全性は確保されない」と切り捨てた。「新基準は合理性を欠く」とまで結論づけている。福井地裁の仮処分決定によって、原子力規制委員会の存在はまったく否定されてしまったわけだ。

 私は原子力規制委員会の立場を守ろうなどと思っているわけではないが、毎日新聞も指摘しているとおり、福井地裁の決定は「事実上、原発の再稼働にゼロリスクを求めるに等しい内容」である。福井地裁の判断並みの厳格さが求められれば、日本の原発の再稼働は今後一切認められないことになるだろう。

 日経新聞の社説は「原発に絶対の安全を求め、そうでなければ運転を認めないという考え方は、現実的といえるのか」と疑問を呈している。

 さらに「原発ゼロが続けば、天然ガスなど化石燃料の輸入に頼らざるを得ず、日本のエネルギー安全保障を脅かす。だが決定はこうした点について判断しなかった」とも書いている。この指摘は日経新聞ならではであり、朝日新聞も毎日新聞も指摘していない。もっとも朝日新聞も毎日新聞もそんなことはわかっていて、だからこそ「警告」あるいは「警鐘」と書いているということかもしれないが、いまひとつ説得力を欠くのではないか。

週刊朝日 2015年5月1日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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