認知症になった親や配偶者が問題行動を起こしたとき、家族は否定したり、抑えつけようとするが、その「NGワード」でかえって行動をエスカレートさせ、症状を悪化させることが多い。

 NGワードで認知症の人を傷つけたり、気遣って治療が遅れてしまわないためにも、認知症になったとき、どんな症状が表れるのか「行動パターン」を知っておきたい。

「川崎幸クリニック」(川崎市幸区)の杉山孝博院長は30年以上、認知症の診察に携わり、現在も約140人以上を訪問診療している。現場での経験に基づき、認知症の人には「行動のパターン」があることを見つけた。講演会等で介護をする家族に広く伝えている。

 まずは、(1)「記憶障害に関する法則」。これは、何度も繰り返し同じことを言うトモコさん(仮名・50代)の70代の母の「記銘力低下」に当てはまる。記憶障害にはほかに、話したり食べたりした経験そのものを忘れる「全体記憶の障害」、近いことから忘れていく「記憶の逆行性喪失」がある。

 ヨウコさん(仮名・50代)に暴言を吐いた80代の義父は、身近な人に感情が強く出る(2)「症状の出現強度に関する法則」。

 介護する人が押さえておきたいのは(3)「自己有利の法則」。記憶障害のため、やったことを忘れて「知らない」「そのことをやったのは自分ではない」と言う。息子の妻に傷つく言葉を投げかけられたカズコさん(仮名・77)の症状がこれだ。

「周りの人は、やったのに『やっていない』と言い訳することが認知症の症状なのだと捉えて、腹を立てないで、その言い分を冷静に受け止めてほしい」(杉山院長)

(4)の「まだら症状の法則」は、正常な部分と認知症として理解すべき部分が混在すること。周りの人は歯がゆく感じて、強い口調で否定してしまうことがあるが、効果はない。

(5)「感情残像の法則」は、出来事はすぐに忘れても、嫌な感情は残像のように残ること。カズコさんの場合は叱責されたことで認知症の症状を悪化させ、半年間ふさぎ込んでしまった。認知症の人に悪い感情を残させないための四つのコツは、会話の中で「褒める、感謝する」「同情する」「共感する」「謝る、認める、演技する」など。

 家族が認知症を理解したことで、NGワードを発しなくなり、症状が改善することもある。

週刊朝日  2014年11月28日号より抜粋