財務相の諮問機関である「財政制度等審議会」は10月、来年度に改定する介護報酬の「現行からの6%程度引き下げ」を厚生労働省に提案した。財務省は6%削ったとしても、「運営に必要な資金は確保できる」と主張しているのだ。

 今回の介護報酬の引き下げについて、介護保険制度に詳しい淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授には改定で大鉈をふるったほうがいいと考える分野がある。デイサービスだ。

「株式会社が運営するものが増え、利益を追求している。そこに規制をかけなかったのが政策の大失敗。介護給付費が無駄に出ていっています」

 デイサービスは、訪問介護やショートステイと並び、在宅介護の三本柱の一つ。だが規制緩和により民間企業の相次ぐ参入で競争が激化する一方で、サービスの質は玉石混交。昨今、問題視されている。

「もう、いい加減なのは全部潰して、いったん“焼け野原”にしたらいいんですよ」

 そう憤るのは7年前、ある企業とフランチャイズ(FC)契約を結んでデイサービス事業に従事してきた男性(42)だ。企業は空き家に出店する方式で急拡大し、現在、全国800カ所以上でFC展開している。

 男性は「介護で社会貢献を」「月に100万円の収入は確実」との宣伝文句に夢を抱いて飛び込んだが「実際は悪夢だった」。

 FC加盟料300万円を払い、事業スタートから2~3年は順調だった。しかし次第に周りに競合する事業者が増えて経営はひっ迫。本社に相談しても「思いが足りない」と、らちが明かなかった。

 本社へは毎月、ロイヤルティーなどの名目で20万円を納めねばならない。仕方なく人件費を抑えるとスタッフが集まらない。やっと採用しても疲弊してすぐに辞めていく。過酷な労働環境にスタッフ同士はいがみ合い、いじめが横行、入所者への暴行も頻繁に見受けられたという。

 男性は心身ともに疲れ果てて、事業を清算中。本社を相手に裁判を起こすことも検討しているという。

「介護報酬が引き下げられれば、こうしたチェーン店は、ほとんどつぶれるんじゃないですか? でも、そのほうがまだマシ。現場は素人ばかりの“掃きだめ”のようになっている」

 デイサービス事業者のずさんな運営実態が明るみに出るなか、厚労省も対応に乗り出した。来年度から人員体制や介護内容などを都道府県に届け出るよう義務付け、サービスの質を維持するためのガイドラインも策定した。

「そのせいで、真面目にやってきた私たちも厳しくなってきてしまった」

 3年前から神奈川県でデイサービスの所長を務める女性(34)は嘆く。定員10人の小規模事業所を契約社員やパート、ドライバーなど約10人で、文字どおりギリギリで回している。だが来年度からは体操や手先を動かすレクリエーションなどの機能訓練指導員として、看護師などの有資格者を配置しなければならない。

「人件費が月額30万円ほど増える。今は週6日間オープンしていますが、スタッフと『私たちは休まずに利用者を増やすしかないかな』と話しています」

 さらに介護報酬が引き下げられたら──。

「どうしていいかわからない。国は小規模事業所を潰したいんじゃないか」

 結城教授が訴える。

「介護報酬の引き下げはすべての施設で一律にするのではなく、増やすべきところを増やし、確実にもうけていたりいい加減だったりする事業者は10%ぐらい下げるなど、メリハリを持たせるべきでしょう」

 介護報酬引き下げによる労働環境の悪化で人材が集まらなくなり、介護保険制度自体が立ち行かなくなれば、“介護難民”が増える事態を招きかねない。

週刊朝日  2014年11月21日号より抜粋