文筆家の北原みのり氏は本誌連載「ニッポンスッポンポン」の中で、ソチオリンピック男子スノーボード選手のメダル獲得にこんなことを思ったという。
* * *
先日、バルセロナオリンピック女子柔道銀メダリスト溝口紀子さんと、お会いした。ちょうど、スノボ男子が銀メダル・銅メダルを取った翌日のこと。溝口さんが、嬉しそうにこう仰っていた。
「スノボはスポーツ界の未来を拓いた。体罰がなくてもメダルを取れるってこと、証明したのだから」
全日本柔道連盟の体罰問題やセクハラに果敢に取り組み、その「ムラ的体質」を変革するために声をあげ続けている溝口さんの言葉だ。ものすっごく重たい。「勝つため」に、どのように「人を育て」ていけばいいのか。オリンピックまでいかなくても、管理職や経営者ならば、誰でも考えることだろう。特に、男性上司の女性部下の「育て方」は、男女雇用機会均等法が施行されて30年近くたっても、難しい課題であり続けているのではないか。
9割以上が男、という職場で働いている女友だちの話。勤務内容や給与に男女差はないというが、「薄い膜を感じながら生きてます」と彼女は言う。
例えば、上司は男の部下たちには「そんなんじゃ、お前、○○(同僚)に勝てないぞっ!」など、プレッシャーをかけるという。すると男性部下たちは、上司の「負けるな!」に素直に反応し、がむしゃらに働き出すというのだ。
「大きな声で、勝ちたくないのか、と言われてもピンと来ないんですよ」
そうだよね。それが、女子の「冷静」なんだよね。そのうちに、上司も彼女を放置するようになったという。ただただ、接し方が分からないのだろう。最悪なのは、そんな彼女に「女は(楽で)いいよね」と言う同僚が出てきたこと。
「女と男は、一緒にやっていけるんでしょうか?」
どうなんでしょうか。服装や髪の色で叩かれ続けたスノボ選手たち。古い体質のシステムに「育てられなかった」彼らが、のびのびと競技し、真っ先にメダルを取ったことの意味を考えたい。怒号や暴力がなくても、誰もが自分の能力を伸ばしていけるような、そんな社会(会社)の方が働きやすいに決まってる。溝口さんのキラキラした目を見て、心からそう思った。
※週刊朝日 2014年2月28日号