10月20日、雑誌「広告批評」を創刊し、長年コラムニストとして活躍していた天野祐吉さんが亡くなった。10月15日午後、高熱により救急車で都内の病院に運ばれた天野さんの死因は「間質性肺炎」。入院して、わずか5日後だった。この病気に詳しい自治医科大学呼吸器内科教授の杉山幸比古医師は、こう解説する。

「肺炎球菌やマイコプラズマといった微生物の感染で起こる一般的肺炎とは、まったく異なる病気です」

肺は、肺胞と呼ばれる空気をためる小さな袋状の組織が集まった器官だ。肺胞と肺胞の間を隔てる薄い壁「間質」に傷害と炎症が起こり、本来柔軟性のある間質が硬く厚く線維化するのが間質性肺炎。進行性の病気で、多くは何年もかけて徐々に悪くなる。高齢者に多く、女性より男性の割合が高い。

どんな症状なのか。

「肺胞に入った酸素は、間質を通過して肺胞の表面にある毛細血管へ送られ、全身に運ばれる。ところが線維化した間質では酸素が通過しにくく、血液が酸素不足を起こす。結果、『息切れ』や『空咳』などが現れます」(杉山医師)

さらに風邪などの感染症やちょっとした無理が引き金となり、急に重症化する場合がある。間質性肺炎の怖さは、この「急性増悪」だと杉山医師は指摘する。

「急性憎悪を起こすと手の施しようがなく、呼吸不全になって死を招くきっかけにもなります」

天野さんは42度の高熱で救急搬送された。杉山医師はあくまでも一般論として、こう推測する。

「急性増悪で熱が出るとは限らず、肺炎などを合併していた可能性もあります。実は間質性肺炎は、肺炎や肺がんなどの病気を合併しやすいのです」

薬や放射線などの副作用、関節リウマチなどの膠原病でも起こるが、多くは原因がわからない「特発性間質性肺炎」だ。加齢や喫煙、環境、体質など、複数の要素が絡んで発病すると考えられている。

特発性間質性肺炎は、健康診断の肺のX線写真で発見されることもあるが、多くは息切れや咳などの自覚症状で病院を受診して見つかる。この「息切れ」がやっかいで、病気発見を遅らせる原因の一つであると、杉山医師は警告する。

「『息切れは年のせいだから』と受診が遅れ、本人が気付かないまま進行し、急性増悪を起こして病院搬送されるケースもあります」

毎年、この病気で数千~1万人程度が亡くなっている。60代以降で息切れや空咳が気になる人、喫煙者(過去に吸っていた人を含む)、化学物質や粉塵が多い職場で働いていた人はリスクが高い。

「早期発見、早期治療が大事。単に年齢のせいなのか、それとも病気の症状なのかを診断してもらうだけでいいので、息切れがある人は一度、呼吸器内科を受診してほしい」(同)

※週刊朝日 2013年11月8日号