プロ野球楽天田中将大(まさひろ)が9月6日、日本ハム戦で2失点完投勝利を挙げ、開幕20連勝を達成。開幕からの連勝では、米大リーグの投手が1912年に達成した19連勝を抜き、ついに「世界新記録」に到達した。昨季から続く連勝は24となり、こちらも自身の持つ日本記録を更新。マー君を止められる者は、もう日本にはいないのかもしれない。

 さすがの楽天・星野仙一監督も呆然とした表情で、「すげえ奴だよ。想像を絶するな。こんなピッチャー見たことない」「(記録は)もう100年たっても破られないでしょう。俺は生きていないけど」と、試合後、エースの偉業を手放しでほめたたえた。

 野球解説者の江本孟紀氏がこう語る。

「本当にとんでもない記録で、単なるラッキーではとても達成できない。今季の田中はこれまででいちばん体ができあがっていると感じます。マウンドに沈み込むような安定したフォームで、『溜め』が利いていて、9回まで投げても直球がシュート回転せず、キレがある。記録はわかりませんが、調子はシーズン終了まで崩れないのではないか」

 実際、防御率は1.24と、2位以下を寄せ付けない驚異的な数字。155奪三振も両リーグ通じて2位で、投球内容も申し分ない。

 もはや敵なしの強さ。こうなると、気になってくるのが米大リーグへの移籍の可能性である。田中自身も昨年末の契約更改の際、「将来的な大リーグへの挑戦希望」を球団側に伝えている。もはや移籍は時間の問題なのか。大リーグ評論家の福島良一氏がこう語る。

「連勝記録にはアメリカ人も驚いていて、最近は毎日のように、米メディアで田中の名前を目にします。大リーグではダルビッシュ有、黒田博樹、岩隈久志の先発3人が活躍しているおかげで日本人投手への評価が再び高まっている。ダルビッシュに匹敵する実力と見られている田中の移籍は、確実に来季の“目玉”になるでしょう」

 前出の江本さんも、田中のアメリカでの活躍に太鼓判を押す。

「1年目から15勝はできるでしょう。体の沈み方など、投球フォームはダルビッシュと似ているし、体幹の強さは黒田に似ている。直球にキレがあるので、三振をバンバンとれます」

 目下、移籍の最大の障害となりそうなのが「ポスティング(入札)制度」だ。この制度、これまでは日米間で2年ごとに更新されてきたが、昨年末から失効したままになっているのだ。

 背景には、米側が日本球団に支払う入札金の高騰があるとされる。12年にダルビッシュがレンジャーズに移籍した際には、約5千万ドル(約40億円)が日ハムに支払われた。米側はこの額を抑えるため、入札金を公開して競わせる「ハンマー・プライス方式」を導入するなどの案を提案してきているというのだ。

 このまま日米が合意しなければ、田中の進路は閉ざされてしまうのか……と、思いきや、前出の福島氏は「心配はいりません」と語り、こう解説する。

「今オフのポスティングは、いわば『田中を獲得するための制度』。大リーグ側も必死のはずで、ポスティングが解禁となる11月1日までには締結に持ち込むでしょう。田中にとっては記録的なシーズンを送った今オフが最高のタイミングであり、楽天側も、どうせメジャーに出すなら最も高値がつく年に出したいはず。今オフの移籍は、ほぼ間違いないでしょう」

 あの熱い雄たけびが、アメリカ人を熱狂させる日が近づいている。

週刊朝日  2013年9月20日号