尿路結石の患者が年々増えている。腎臓で作られた尿は、尿管を通って膀胱(ぼうこう)にためられ、尿道から排出されるが、この尿の通り道にできる石が尿路結石だ。尿路結石の外科的治療としては専用の装置を使って体外から衝撃波を当て、結石を細かく砕く「体外衝撃波結石破砕術(ESWL)」などがあるが、最近では新たな手法も登場しているという。東京都に住む会社員の田中康弘さん(仮名・58歳)もその方法を試したひとりだ。
左右の腎臓に結石がある田中さんは、総合病院の泌尿器科を受診し、まずは左の腎結石をESWLで治療することになった。治療を3回受けたものの、ほとんど排石されず、様子をみていたが、ある日突然、左の腰に激痛が走ったため再度受診。担当医は、左の腎臓と尿管に複数の結石が連なり、右の腎結石も成長していることを確認した。
そこで、「経尿道的尿管砕石術(TUL)」を受けるよう勧めて、都立大塚病院泌尿器科医長の高沢亮治医師に紹介した。高沢医師はこう指摘する。
「患者さんも医療者側も安易にESWLを選び、この治療が有効でない人に何度も繰り返すという問題が生じています。自然に排石されずに、再発する例も少なくありません」
TULは、尿管鏡という直径数ミリの細い内視鏡を尿道から入れ、その先端からレーザーなどを照射して結石を砕き、かつ砕いた石を摘出する方法だ。ESWLでは砕けない硬い結石も破砕でき、尿管損傷のリスクは5%未満と低い。同院の成功率は98%になるという。
尿管鏡には、まっすぐな棒状の硬性鏡と、胃カメラのように曲がる軟性鏡があり、前者を用いる方法を「r‐TUL」、後者を「f‐TUL」という。硬性鏡が届く範囲(通常、尿管の中ほどまで)はr‐TUL、それより上はf‐TULが実施される。
高沢医師は、X線、超音波、CT(コンピューター断層撮影)の検査で、田中さんの左の腎臓に1センチの結石が1個、尿管には3~6ミリの結石が計4個あるのを確認した。右の腎結石は1個だが2.5センチあった。
ESWLは、結石が尿路のどこにあっても実施できるが、結石が大きくなるほどその治療成績は劣る。しかし、f‐TULは2センチ以上の比較的大きな結石や多発する結石でも治療効果を十分期待できる。高沢医師は、左右の結石を同時に治療することにした。
手術は、腰椎(ようつい・下半身)麻酔か全身麻酔をかけて行われる。尿道から挿入された内視鏡は、膀胱を経て尿管を進み、腎臓内に達する。医師は、モニター画像で結石を見ながら、手元の操作でレーザー照射を繰り返し、結石を砕いていく。細かくなった破片は、バスケットカテーテルと呼ばれるかご状の器具に収め、逆のルートで摘出する。細やかな技術と根気を要する手技だ。
手術時間は通常30~60分ほどだが、結石が大きい、硬い、数が多いなどの場合はもう少し時間がかかる。術後は尿管ステントと呼ばれるチューブを数日間、留置する。入院期間は通常、数日間で、同院では3泊4日で行っている症例が多い。田中さんもこの治療を受けた。手術時間は左右で2時間だった。
※週刊朝日 2013年8月2日号