この言葉で再びメジャーへの挑戦心をかき立てられた吉井は、意を決して長嶋監督に断りを入れた。メッツと契約後、メディカルチェックで肘に問題が見つかり、当初6000万円プラス出来高の年俸が2400万円にダウン。13億円との落差はあまりにも大きかったが、99年に12勝を挙げるなど、メジャー3球団で5年プレーし、通算37勝を記録した。

 02年オフ、松井秀喜のメジャー移籍により、代役の4番を探すことになった巨人は、近鉄の主砲で、この年打率2割9分4厘、42本塁打、115打点をマークした中村紀洋に狙いを定める。

「いろいろ野球を経験したほうがプラスになる」とメジャーを含む新天地を求めてFA宣言した中村は、残留を要請する近鉄の6年総額36億円という破格の条件に満足しながらも、「全球団と交渉したうえで結論を出す」と表明した。

 争奪戦には星野仙一監督の阪神も手を挙げ、巨人も「柔軟性があって、守備もダイナミックで繊細。思い切りの良さ、パワーは日本を代表する打者です」(原監督)と、“ポスト松井”の獲得に全力を挙げた。

 だが、渡辺恒雄オーナーがトレードマークの金髪を槍玉に上げ、「巨人に来るなら、髪を黒くしてきてほしい」と要望すると、中村は11月7日の東西対抗戦に金髪オレンジまだらモヒカンという髪型で出場。「自分のスタイルを変えるつもりはない」という意思表示だった。

 その後、渡辺オーナーは「些細なことだ。オレの趣味で球団を経営しているわけじゃない」と譲歩したものの、4年総額30億円を提示した初交渉から4日後の同19日、ヤクルトの主砲・ペタジーニの獲得に成功すると、「ペタが来るんだから、土下座してまでおいで願わなくてもいい」と豹変。この発言に対し、中村が「本当に必要とされているのか?」と巨人側に問い合わせるひと幕も。

 土井誠球団代表は「(ペタジーニ獲得後も)基本的な方針に変わりはない」と交渉継続の姿勢を見せたが、12月にメジャーとの交渉を控えているのに、11月中に返事を求められた中村は納得できず、同27日、「阪神、近鉄は待っていただいている。それだけ高く評価してくれているということ。巨人にはそういう気持ちがなかったということですから」と正式に断りを入れた。

 その後、中村はメッツと契約寸前までいきながら、契約情報の漏洩に不信感を抱いたことから決裂。さらに「中村ブランドにエリートは似合わない」と阪神も断った結果、まさかの「大山鳴動して」近鉄残留となった。

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