7月24日の夕暮れ時。丸善書店丸の内本店(東京)には長蛇の列ができた。児童文学から青春小説、家族小説など多彩に活躍する作家、森絵都さんの新刊『カザアナ』(朝日新聞出版)の出版を記念したサイン会だ。意外にもデビュー30年にしてサイン会は初めて。開催告知からすぐに同店には問い合わせが相次ぎ、当日参加も加わってファンの列は伸びていった。
■性別も年齢も問わないファン層
森さんのファンの特徴は男女問わず、幅広い年齢層ということだ。サインを求める列にはセーラー服の女子中学生の姿も。
先頭に並んだのは50代の男性。中学校の国語教諭だという。
「学校でも子どもたちに勧めています。特に中学生の日々や悩みを描いた『カラフル』はあの年頃の子どもの内面を見事に描いていて、みんな共感するようです。作品を通して生徒との距離もぐっと縮まります」(男性)。
作品が親子の絆になったという人も。中学3年の女子生徒は、母親(47)と一緒に茨城から参加した。森作品と出会ったのは小学校時代だ。「中学受験の問題集に森先生の作品があったんです。好きなのは『みかづき』や『Dive!!』です」と話す。母親は「反抗期でぶつかることもありますが、作品が共通の話題になります」。
読書が通勤時間の楽しみだという会社員の男性(58)は「とにかくジャンルが幅広く、どの方向に向けても緻密で、発想力がすごいと思いますね。新作は長編なのでしばらく楽しめそうです」と顔をほころばせた。
■感動のあまり泣き出す女性も…
新刊の『カザアナ』の舞台は、国力も低下し、人々は監視社会の閉塞感の中に生きているという近未来の日本。そんな時代をタフに生き抜く女子中学生、里宇(りう)、不登校の弟と二人の母親は、石や虫など自然と心を通わせる力を持つ“カザアナ”の末裔と出会う。カザアナたちと関わる人たちは少しずつ笑顔になってゆく。やがて謎のゲリラ組織が登場し、騒動は国を超えて――。ささやかで身近な変化から時空を超えてゆく展開、その圧倒的な世界観は「作家生活30年、想像力の大爆発」と評されている。
サイン会でも、次々と笑顔は連鎖した。憧れの作家に会えた感動で泣き出す女性。「新作が楽しみで楽しみで、新聞や雑誌の書評はあえて読まずに今日を待ってました!」と興奮気味に語る人。偶然書店を訪れていてサイン会に気づき、あわてて新刊を手にレジへ走る人も。
ファンの愛は熱く、燃え続ける。「小さいときからファンでした」という女性の番が来た。森さんが「え? 今は……?」と尋ねると「社会人1年生です!」。
サイン入りの最新刊を抱きしめながら、女性は会場を後にした。(ライター・浅野裕見子)