●後世が作り出した金さんのイメージ
さて、一番の興味は「遠山の金さん」に桜吹雪があったかどうかであろう。これに関しては脚色部分がかなり大きい。家督を継ぐまで複雑な家庭環境だったため、成人前には荒れた生活をしていた時期があり、この時に彫り物を入れたのではないかと言われているが、それがどの程度のものであったかは確かな文献が残っていない。つまり、巷間知られているような“大見得”をしていた事実はない。
また、狡猾な年寄り・鳥居耀蔵に苦しめられる遠山景元というイメージがあるが、実際は耀蔵のほうが3歳ほど若い。金さんは奉行を辞めた3年後63歳で没し、現在は豊島区・本妙寺で眠っている。一方の耀蔵は、幽閉を解かれたのち東京へ戻り明治6年まで生きた。平穏な6年を過ごし、77歳で亡くなったのち文京区・吉祥寺のお墓に入っている。本妙寺も吉祥寺もともに大寺であり、さまざまな演目に登場するゆかりの場所だ。
余計なことだが、私は歴史上の人物で鳥居耀蔵が誰よりも嫌いである。ところが、私が誰よりも好きな作家・宮部みゆきさんの特に好きな作品のひとつ「孤宿の人」のモデルが鳥居耀蔵と聞いてショックを受けた。作中で「加賀様は鬼だ、悪霊だ。この丸海藩にあらゆる災厄を運んでくる」と主人公から恐れられた人物である。調べてみると配流地の丸亀藩では、薬草の栽培など行いずいぶん評価は高かったようだ。そうでもなければ、景元が眠るすぐそばのお寺に葬られてよいわけがない。今は徒歩30分ほど離れた巣鴨の地になっているが、明治43年までは本妙寺はもっと近く、現在の東京大学の向かい側、吉祥寺よりもずっと江戸城に近い本郷の地にあったのだから。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)