また、その方が、景気対策としても有効だ。なぜなら、富裕層の家庭は、120円税負担が減ったからと言って、その分全額を他の支出に回すかというとそういうことはない。元々、使いたいだけ使っているので、浮いた分は貯蓄に回る可能性が高い。だから、消費はあまり増えない。しかし、貧困家庭に対してお金を回せば、買いたいものを我慢していた家庭だから、その分消費する可能性が高い。したがって消費の落ち込みを防ぐ効果が高くなるのだ。

 つまり、軽減税率は止めてその分を貧困層に回す方が貧困対策と景気対策両面で優れているということになる。

 また、軽減税率で税収が1兆円程度減るので、政府はその分を穴埋めしようとしている。そこで、例えば、金融所得に対する優遇税率をなくそうという方向に行くなら良いのだが、そういうことは起きない。いくつかの財源として挙げられているものの中には、いわゆる総合合算制度導入の見送りで4000億円というものがある。医療と介護に関しては現在も自己負担の合計限度額を超えた分が支給されるため自己負担が抑えられるという制度がある。大病した場合など一時期に高額の医療費を払わなければならない時でも、支払額に所得に応じた上限を設けることで、富裕層でなくても何とかまともな治療を受けられるようになっているのだ。

 しかし、一人の人に着目した場合、子育て中で支出が膨らんでいる時期に親の介護が必要になり、さらに自分も交通事故に遭って障害者となって治療費と生活費に困るというケースもあるが、これらにかかる費用の合計額に上限を設けて負担の軽減を図るという制度がない。実は、消費税を10%に引き上げる際には、その税収で、この総合合算制度を設けるということになっていた。そのためには4000億円が必要だが、今、軽減税率を実施する財源ねん出のために、この制度の導入を止めることになっているのだ。これは貧困層や中間所得層に恩恵の大きい制度を止めて、富裕層のステーキ代に回すと言っても良い。

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業界のロビーイングと霞が関の利権拡大、群がる議員