私は経産省時代、取引信用課長としてカード業界を担当したこともあるが、カード業界のことを少しでも勉強した者であれば、こんなことは思いつかない。私が課長なら、その場でボツだ。世耕経産相の意向を忖度したのかどうかわからないが、やっぱり、経産官僚の質が相当落ちているということを露呈したというしかないだろう。何が問題なのか。

 まず、クレジットカード会社は小売店や飲食店などの加盟店を「大手」「中小」などという基準で分類していない。だから、改めてシステムを変更して、加盟店の仕分けをしないといけないのだが、その作業はとても煩雑だ。とても来年10月の増税時までには間に合うとは思えない。

 また、経産省と財務省がカード会社に決済手数料の上限を3%台にすることを求めているのも驚きだ。手数料は、サービス利用の対価だ。つまり、物の値段と一緒。アイスクリーム1個100円を90円にすれば補助金を出すというのと同じ政策。こんな商売の核心について政府が口出しするとは、まるで共産主義ではないか。

 加盟店手数料の水準は、実は消費者の行動様式と密接に関連して決まる。日本の消費者はリボ払いやキャッシングの利用を嫌う。毎月の収入と相談しながら支出の額を管理していく堅実な消費態度を守ろうとする人が多いからだ。キャッシングはすなわち借金だし、リボルビングも月々の支払いを一定額以下にできるが、残高が残れば、それに高い金利が付く。それで借金漬けになるのが怖いから、消費者は最初から、こうした方法を選ばないのだ。そのため、リボルビングなどの金利で大きな利益を上げている欧米のカード会社などとは違い、日本のカード会社は3~7%の加盟店手数料が収益の中心となっている。それを3%台に抑え込めば、カード会社の収益は大幅に悪化するだろう。そうなると、その分を取り戻そうと、利用者にリボ払いやキャッシングを強力にプッシュせざるを得ない。その結果、カード破産者の増加にもつながりうる。消費者の純粋な選択でそうなるなら仕方ないかもしれないが、政府の政策によってカード会社をそういう方向へ誘導するのは、消費者政策としては、全く愚の骨頂ではないか。

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わかりにくさから、店と客のトラブルの可能性も