いつもではないのが救いだが、病室が極めて騒がしい時がある。

 病院でこんなひどい目に遭った、と同じ不満を一時(いちどき)に何度も大声で繰り返す患者。それに対し、看護師や医師がさらに大声で返しているように感じる場合もある。叫び声はむろんのこと、意味を持った言葉を完全に無視することはできない。よせばいいのに「何度、同じ話を繰り返すのか」「うるさい」といちいち反応し、ぐったりしてしまう。

 そんなとき、おしゃべりできる見舞客がいると本当に助かる。自分に向けてものが語られ、言葉を返す。そのうち、最初は「うるさいね」と指さしていた声が気にならなくなる。

 お見舞いでとりわけうれしいのは、後輩が訪ねてくることだ。

 以前入院したときは、政治部時代に総理番として指導した「1年生」4人がそろって見舞ってくれた。

 つい先日も、「野上さん、後輩とおっしゃる方がお見舞いにお見えですけども」と職員に案内されてきたのは、福島総局で次長(デスク)をしていた時の総局員、佐藤啓介記者(現・文化くらし報道部)だった。背中から女性が現れて、頭をちょこんと下げた。新婚の彩乃さんだ。

 彼について悪い評判は聞かない。あれこれと話した後の別れ際、「あの……」と彼は言った。「今撮った写真、コラムとかで使ってもらって全然かまわないですから」

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