「あれ、連絡したほうがよかった?」という反応から想像するに、事前に知らせずに「会えたら会う」ほうが私の負担が小さいと考えたらしかった。

 その辺は患者によって違うだろう。

 私は人が訪ねてくるとあらかじめわかっているほうがありがたい。

 時間が無限でない以上、その時を大切にしたい。顔を見るだけでもうれしいが、来るのを知っていれば心の準備ができる。何を話すか、尋ねるか、どの思い出を持ち出すか。あらかじめ思いめぐらせるのも楽しい。

 ひところ、文章を書いたり人前で話したりする時に、なぜ病気になる前よりもよどみなく自分の考えを表せるのか、と考えたことがあった。要するに、ふだんから見舞客に説明し、質問に答えているから頭が整理されているのだと気づいた。

 そんな堅苦しい話は抜きにしても、お見舞いは気晴らしになる。先月28日に現れた他社のがん経験者のお二人は、私の具合が悪そうなのを見て「僕たち同士で勝手にしゃべってますから」と言った。永田町を取材した者にとって、あいも変わらぬメンツが滑った転んだを繰り返すさまには、ご近所のうわさ話を聞くような趣がある。気づくと私も、野党再編をめぐる政局話にひたっていた。

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