その下の現場はどうなっていたのかと言うと、おそらくほとんどの官僚は、「とんでもない」「恥ずかしい」と感じていたはずだ。ちょっとした細工ではない。明らかに間違った和訳を作るのだから、本来なら切腹ものだ。担当者レベルでは、上司に反対した者もいるかもしれない。しかし、局長クラスを含めて、茂木大臣に真っ向から逆らう者はいなかったと思う。安倍総理のこれまでのFTA否定発言との整合性をとらざるを得ないという政治状況は理解できるし、安倍総理の腰巾着である茂木氏に刀向かっても所詮無駄だと諦めてしまったのではないだろうか。ちなみに、茂木氏と言えば、言うことを聞く官僚にはめっぽう優しいが、逆らう者は容赦なく切り捨てることでも有名だ。この間に、官邸官僚たちが関与した可能性も十分にある。
こうして、現場も捏造の共犯になってしまった。
先週のコラムでも紹介したとおり、外務省は、英語の正式文書を1週間もホームページに掲載せずに一般人の目に触れないようにし、政府の日本語訳だけを「日米共同声明」と装って掲載していた。
後に批判を受けて英語版を掲載したが、今も、英語版だけが正式な文書だとは表示せず、「共同声明(和文(PDF)/英文(PDF))」と掲載し、英文を後ろに置いて、いかにも、両者がともに正式文書であるように見せかけるという姑息な掲載法を採っている。
また、英文を1週間隠した理由を問い合わせても、あるいは英文の正確な掲載日時を聞いても、回答を避けて逃げ回るという哀れな状況だ。
ただし、英語版だけが正式文書であることは、5日の段階で渋々私に認めて以降、外部の問い合わせに対して比較的素直に認めているようだ。
■小役人のレトリックでどう抵抗するのかが見もの
これからは、このTAG捏造に対して、マスコミも多少は厳しい追及を始める可能性がある。また、国会では、野党が攻撃材料にすることは確実だ。これに対して、茂木大臣も官僚もしっかりと身構えて準備をしているはずだ。分厚い想定問答集もできているだろう。12日の記者会見では、茂木大臣が用意された想定問答を慎重に読み上げる姿が印象的だったそうだ。