5.後に、筆者の指摘により、日米共同声明の正式文書は英語版だけであること、したがって、「食い違い」は存在せず、英語の文書の内容だけが正しいということがはっきりした。
6.外務省は、声明発表後1週間、ホームページに、正式文書である英語の共同声明をわざと掲載せず、日本政府が作った日本語訳だけを正式文書でないにもかかわらず、「仮訳」などの注釈もつけずに、「日米共同声明」と称して掲載していた。
7.筆者が、外務省に、正式文書である英文をいつ掲載したのか確認しても、外務省は頑なに回答を拒んだことから、ますます英文隠しの疑惑が深まった。
8.以上の事情を勘案すると、政府が、確信犯的に、「FTA」という言葉を消し去るために、本来存在しない「物品貿易協定(TAG)」を捏造したと判断できる。
FTAアレルギーについて、少しだけ解説を加えると、日本の農業関係者の間には、かなり以前から、日米でFTA交渉を始めると、立場の弱い日本が、非常に厳しい包括的な自由化措置を強いられ、関税は大幅に引き下げられ、輸入規制も全部とっぱらわれるという恐怖感が蔓延している。最近の米韓FTAで、韓国農業が大きな痛手を被ったこともさらにその懸念を強めた。このため、安倍総理は、国会でも、FTA交渉はやらないとはっきり答弁し、来春の統一地方選、夏の参議院選向けに農業関係者の支持をつなぎとめようとしてきた。
ところが、米国との交渉で米側に押し切られた日本政府は、実質的なFTA交渉入りをのまざるを得なかった。苦しい立場に追い込まれた政府は、米国との合意がFTAだと言われないために、「物品貿易協定(TAG)」という新しい言葉を日本語訳の中だけで捏造し、あたかも、独立した「物品貿易協定(TAG)」の交渉だけが始まるかのように見せかけた。
■交渉から共同声明発表への経過を推理する
では、どうしてこんな猿芝居を演じなければならなくなったのか、その経過を推測してみよう。(これはあくまでも推測に過ぎない。実際の経過はこれと違う可能性もあるし、大筋が正しくても、実際には、はるかに複雑な経路をたどっているはずである)