また、安倍総理は、当初、記者会見では隠していたが、高額武器の購入やLNG購入についても、今回改めて手形を切っていて、それをトランプ大統領は国内向け宣伝に早速使っている。

 こうした成果を差し出したことが、トランプ氏の中間選挙向け選挙協力となったわけだ。

 一方、安倍総理からは、来年の参院選までは、絶対にFTAとは言えないし、大きな譲歩を伴う結論は出せない事情についてトランプ大統領に陳情しているだろう。だから、日本がTAGという言葉を使ってFTAを否定しても大目に見てくれるわけだ。

 もちろん、これだけ大きな捏造だから、米側にも当然あらかじめ伝えてあるはずだ。それでも選挙互助会の趣旨から、米側はおとなしくしている。ペンス副大統領のFTA発言は余計だったかもしれないが、トランプ氏は「FTA」という言葉は今のところ使っていない。これだけでも大きな配慮だと、安倍総理は感謝しているだろう。

 これも当然のことだが、米側が交渉内容について譲歩したわけではなく、単なる言葉遣いで配慮してくれているだけだ。それが可能なのも、正式文書が英語だけで、日本語で何を言おうが書こうが、実際の交渉には何の影響もない、英文がすべてだという自信が米側にあるからである。

 そう考えると、厳しい交渉結果が出るのは、来年の参議院選挙後だと見ればよいだろう。それまでは、安倍総理は、年末の予算編成で、米国製武器への大盤振る舞いなどで恭順の意を表すことで何とかつないでいくのだ。

 トランプ大統領から見れば、主要国の中で、安倍総理はたった独りのサポーターだ。安倍総理がいなくなれば、G7サミットをはじめ国際会議で一人ぼっちの嫌われ者になってしまう。安倍総理は、恥ずかしげもなく、トランプ大統領に擦り寄り、「いつでも一体」などとご機嫌を取ってくれる。精神安定剤としても大切な存在だ。

 トランプ大統領は、したたかに実利はとりつつも、安倍総理が政権から追われることは避けたいと考えているのだろう。

 このような背景を理解すれば、今回の前代未聞の捏造劇が今のところ成り立っていることも、「なるほど」と、理解できるのではないだろうか。

著者プロフィールを見る
古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

古賀茂明の記事一覧はこちら