もし、僕の言う通り、A子さんが「破格の給料」を求めたら「家族なのに、なんでそんなことを言うのか?」と両親も親戚の人達も怒るでしょう。
つまりは、ビジネスとは考えず、家族の助け合いだと思っているのです。「200年続いた老舗の家」を続ける理由も、ビジネスではなく、それが伝統だからです。
ビジネスなら、思考を求められますが、家族と伝統なら、「世間」の「所与性」に従っているだけで、思考する必要はありません。妹さんがサポートしている間も、家族の思考放棄はずっと続くでしょう。
A子さんが、もし、故郷で働き出し、利益を出したとしても、家族や親戚の理想像は、「長年続く酒造会社を経営する兄とサポートする妹」です。A子さんの人生もやりがいも存在も、ずっと二番目なのです。実質、一番目の働きをしていても、ずっと二番目なのです。
家族も親戚も、まず兄を立てるでしょう。兄が最高経営責任者であり、兄の決断を一番にするはずです。そもそも、兄が頼りなく、経営者として失格だから妹を呼んだはずなのに、依然として、「世間」に対して「兄が責任者」というアピールをするでしょうし、実際にそういう扱いになるでしょう。
古い田舎で、「妹が兄を差し置いて経営し、兄に指示を出し、兄を必要としない」なんていう風潮を家族や親戚が許すはずはないのです。
A子さんは、どんなに働いても、評価としては兄のサポートであり、兄より下の存在なのです。
どんなに給料をもらっても、有能な部下はいつまでも無能な社長を支えはしません。たいていは、自分で起業するか、別の会社の社長にヘッドハンティングされます。
でも、A子さんは「家族なんだから」という呪いの言葉で呪縛され続けるのです。
A子さんが幸せになれるはずがないのです。
でも、今僕が書いてきたことは、A子さんは聡明な人ですから、予想していたはずです。ただ、家族を「捨てる」決心がつかないだけです。
大人になったら、家族を捨てなきゃいけない時も来るのです。それは、残酷だからとか冷たいからではなく、自分の人生を生きるためです。