作家・演出家の鴻上尚史氏が、あなたのお悩みにおこたえします! 夫婦、家族、職場、学校、恋愛、友人、親戚、社会人サークル、孤独……。皆さまのお悩みをぜひ、ご投稿ください(https://publications.asahi.com/kokami/)。採用された方には、本連載にて鴻上尚史氏が心底真剣に、そしてポジティブにおこたえします(撮影/写真部・小山幸佑))
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※イメージ写真
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 鴻上尚史人生相談。「酒蔵の跡を継いだ兄が心もとなく、両親がサポートのために帰ってこいと言われ悩んでいます」と相談者。鴻上尚史が答えた、人生の厳しい決断とは?

【相談6】「自営業の両親と甘やかされた兄」(相談者:32歳 女性 A子)

 2歳上の兄が悩みです。自営業(老舗の小さな酒造会社)をしている我が家ではとにかく跡継ぎの兄が一番の扱いで、とくに母はさんざん兄を甘やかしてきました(小学3、4年でまだ靴下をはかせてあげていた異常さです)。同じ家の子供なのに、あまりに差別されて育ったと思います。母が授業参観にくれば、兄を見たいばかりに私は5分で済まされたこともあります。口を開けば「あの子はうちを継ぐんだから」と。いくらなんでもいつの時代だよと思ってきました。兄もその母の偏愛にのっかって生きてきたので、いろんなことがルーズで努力知らずです。水泳でも算盤(そろばん)でもお稽古事はたいてい1年も続かず、何かを成し遂げることが苦手です。大学受験にも失敗し、誰も知らないような三流大学にいきました(怠け者なので当然と思いました)。

 家を継いだところであんなぼんやりした兄に経営なんてできるわけないと思っていたら、兄が30代も半ばに近づいてきたところその仕事ぶりにいよいよ両親も不安になってきたようで、今になって兄のサポートのために「帰ってこい、こっちで結婚すればいい」と言ってきたのです(ちなみに兄は一度お見合い結婚しましたが、1年で奥さんに逃げられました。あの母親つきの兄ですから、私は元奥さんに同情しました)。

 あまりに勝手で腹が立ちました。私はもう10年も食品メーカーで働いていて、私の仕事人生があります。兄をさんざん甘やかしておいて都合がよすぎると母に怒りをぶつけたら、200年続いた老舗の家を見捨てて平気なのかと泣いてしまいました。叔父さんや叔母さんまで私に電話をかけてきて「A子は頭がいいからお母さんも頼りにしてるんだ、こういうとき家族は助け合うのが当たり前じゃないか」と説教するのです。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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