これが激しいビジネスを生きている親なら、「兄はどこかのんびりしている。これでは将来、競争社会を生きていけない。妹の方が向いているんじゃないか?」と早い段階で判断します。性格的にビジネスに向いているのかどうかは、高校ぐらいでもう分かるでしょう。それがムリでも、大学に入れば見えてくるはずです。人間は、いきなり変身するわけではないのです。
「三流大学」に入り、結婚に失敗しても、両親は思考を放棄して「世間」のルールである「所与性」に従って「長男だから」と経営を任せていたのです。
そして、兄が三十代の半ばに来て、ようやく、家族は、「所与性」にすがるのをやめたのです。
でも、「このままじゃまずい」と思っただけで、思考を始めたわけではありません。ただ、「長男が頼りない時は、妹に頼もう」と「世間」のルール(これを『長幼の序』と僕は呼んでいます)に従っただけです。
本当に思考を始めたら、A子さんに提案するはずです。
「会社の経営権はA子に渡す。長男はサポート的な立場にする。それが経営のじゃまになるのなら、半年から一年後には、長男は会社の経営から離れるようにする」
なんてことです。だって、兄が頼りないから妹に泣いて頼むのです。つまり、兄は実質的に社長失格ということです。
ですから、ビジネスとして酒造会社を助けて欲しいと提案するはずなのです。でも、両親や親戚が言っているのは「兄を助けて欲しい」です。
ビジネスの原則として、これがどれほどおかしいことかが分かるでしょう。有能な社長が、サポートしてくれる部下を求めるのなら分かります。けれど、能力のない社長を、君は有能だから部下としてサポートしてくれ、というのは、「その見返りに何をもらえるのか?」というリターンの問題になります。
通常、この場合は、破格の給料が払われます。
A子さんが苦労するだろうと思うのは、家族と伝統という視点でしか家族も親戚も考えてない、という点です。