塩そば専門店 桑ばら/東京都豊島区東池袋1-27-5/[昼の部]11:00、[夜の部]17:00~。※スープ売切れ次第終了/筆者撮影
塩そば専門店 桑ばら/東京都豊島区東池袋1-27-5/[昼の部]11:00、[夜の部]17:00~。※スープ売切れ次第終了/筆者撮影

■「しょっぱいから薄めてくれ」「なめらかな麺を使うべきだ」

 繁華街・池袋に塩ラーメンの専門店がある。「塩そば専門店 桑ばら」だ。池袋は学生や若者をターゲットにしたこってり系やデカ盛り系の店が多い中、塩一本で行列を作る名店の一つだ。

 店主の桑原雅紀さん(45)は池袋生まれ。18歳で働き始め、24歳からは居酒屋の経営をしていた。だが、バブル崩壊による不景気に不安を感じ、手に職をつけようと、かつてから興味があった料理人を志す。知人の焼肉店で働いてみたが、より調理技術が必要とされる料理を身に着けたいと感じ、3カ月が経った頃、別の知人の誘いを受けてラーメンの世界へ飛び込んだ。

「塩そば専門店 桑ばら」店主の桑原雅紀さん。賛否両論を覚悟して貫いた一杯が多くのラーメンファンを魅了している(筆者撮影)
「塩そば専門店 桑ばら」店主の桑原雅紀さん。賛否両論を覚悟して貫いた一杯が多くのラーメンファンを魅了している(筆者撮影)

 05年4月、知人とともに池袋に「まるきゅうらぁめん」をオープンさせる。土地勘もあったことから、池袋のサンシャインシティ近くの路地裏にある蕎麦屋の跡地を選んだ。29歳の時だった。

 オープン当時は醤油、塩、味噌と色々なラーメンを提供していたが、06年にはメニューを絞る決心をする。塩ラーメンの専門店にしたのだ。桑原さんはその狙いをこう語る。

「当時は濃厚豚骨魚介が全盛。麺は太麺が主流で、細麺は流行っていませんでした。しかも、池袋エリアには塩ラーメン専門店は1店舗もなかった。流行とは逆をやろう!と考えたんです」

 ここから、これまで出していた塩ラーメンを一気にブラッシュアップする。通常の塩ラーメンは、タレに白だしや白醤油、乾物などの旨味をプラスすることが多い。しかし、これでは本当の塩ラーメンとは言えないと、桑原さんはタレを作らず、「塩だけ」にこだわった。

塩そばは一杯800円。塩角をビシッと感じるスープが美味しい(筆者撮影)
塩そばは一杯800円。塩角をビシッと感じるスープが美味しい(筆者撮影)

 タレを作らずに、2種類の岩塩をブレンドしてそのままスープに溶くと、しょっぱいがクセになる味になった。麺は博多豚骨ラーメンをイメージして、細めの硬い麺を選んだ。ラーメンというより「蕎麦」のイメージで、メニューの名前も「塩そば」とした。

 このラーメンに賛否両論が集まることは織り込み済みだった。だが、「しょっぱいから薄めてくれ」「こんな硬い麺ではなく、なめらかな麺を使うべきだ」と想像以上のクレームを受けたという。それでも桑原さんは一切耳を貸さず、曲げずに自分のラーメンを作り続けた。

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佐野実の放った一言