――採用条件に英語力を求める企業は、増えているのでしょうか。
桜井貴史(doda編集長)そうですね。「doda」の求人票の中で、例えば条件面など含め「TOEIC※1」と記載されている求人数の推移は、コロナ禍前に比べて近年は顕著に増えています。現在は海外展開する企業も増えており、アジア、アメリカを中心に、さまざまな業態がグローバル市場に進出しています。また、日本のマーケットに限ったとしても、英語圏の企業との競争戦略を考える必要性が増しています。さらに、外資系企業の日本支社に勤務し、グローバル本社とやりとりするようなケースもありますよね。このように、専門性を含む高い英語力が、多くの企業で求められてきています。
――TOEICのスコアは、待遇にも影響するのでしょうか。
桜井当社が提供する、中途採用支援サービス「HR forecaster※2」のデータからは、TOEICのスコアが高くなるにつれ、平均年収が上がる傾向が見られます。職種によってバラつきはありますが、マーケティング職、ITエンジニア職、営業職などは、とりわけ大きな差が出てくるようです。
※1 本企画の本文内の「TOEIC」はTOEIC Listening & Reading Test(TOEIC L&R)を指す。
※2 転職サービス「doda」が蓄積してきた200万件以上の転職データから作成した統計データを活用し、転職マーケットに即した求人要件を作成できるサービス。
POINT 1
英語が強みになる職種とは?
マーケティングや営業職では、海外進出に際しての消費者動向調査、販売店や消費者とのやり取りに英語は必須。ITエンジニア職は、世界中から発信されている、海外の最新技術に関する情報をいち早く取り入れることができる。加えて、海外と日本のチームを仲介する「ブリッジSE」の需要も増加中。また、インバウンドの増加で販売・サービス業でも英語習得の有無で収入に差が出ている。
――履歴書に記載するにあたって、TOEICのスコアが低い場合は、書く意味がないのでしょうか。
桜井一般的に、書きやすいのは600点以上といわれますが、低いと意味がないということはありません。まず、現状の就職市場は、中途・新卒含めて、全体に売り手市場で、どの業界でも労働力不足が続いています。つまり、全体的に採用要件そのものの基準を緩和せざるを得ない状況にあるともいえます。例えば、求人票で「必須」と書かれている場合は、そのスコアが最低ラインですが、「歓迎」の場合は、必ずしも必要ではありません。「500点相当」、あるいは「英語を学ぶ意欲がある方」などの表現もあります。このとき選考では、「500点」というスコアそのものよりも、「この1年で400点から500点に上がりました」という伸びや、「今後は○○点を目指します」と英語学習への意気込みをアピールすることが得策です。人材採用が厳しい現状では、多くの企業は「意欲」にも注目しています。つまり「学び続ける力」、あるいは「今後成長する力」も見るということです。スコアが上がってきているという事実は、一つのエビデンスとなります。また、新卒採用でも、近年エントリーシート対策が徹底され、個々の差が見えにくくなっているという実態がある中、受験実績や具体的なスコアを示すことで、企業はその人の本気度を認識することができると思います。
――リスキリングを重視する企業も増えているといいます。
桜井そうですね。福利厚生の一環で資格取得補助が出るなど、入社後の学びを推奨している企業も多いです。そういった意味で、「学びたい人」と「学びを支援する企業」という、新しいマッチングが増えつつある印象もあります。
POINT 2
「英語力」を示す手段は?
転職や昇進を目指す際、英語の能力だけでなく意欲を示すためにも検定試験の活用は効果的。採用においては、人事・採用担当のみならず、配属予定部署などさまざまな人が選考に関わるケースが多い。そのため大きな企業ほど、英語力の指標として、スコアごとの英語レベルを理解しやすいTOEICを採用する傾向にある。
――英語力を武器にキャリアアップする事例には、どのようなものがあるのでしょうか。
桜井まずは、現職でのキャリアアップです。例えば、勤めている企業が海外進出を目指すといった場合、英語力があれば海外市場の最新動向の把握や、競合調査を行いやすくなるため、営業戦略の立案に携われるかもしれません。そして、実際に海外の顧客に営業する際はもちろん、外国籍の人と一緒に働く場合も、英語力が生きてきます。このように、英語を使ってより大きな裁量権や影響力のある業務に就くことによって、ポジションや報酬のアップが期待できるでしょう。
もう一つは、転職によるキャリアアップです。英語力を生かして海外営業に挑戦する場合、経験に加えて、高いTOEICスコアがあれば、報酬が上がる可能性は大いにあり得ます。

給与水準について、TOEICの「スコアなし」と比較すると、700点台以上から年収の伸びに変化が見え始め、800点台以上では100万円以上もの差が出ている。
パーソルキャリア株式会社 転職サービス「doda」「平均年収ランキング2023」(2023年12月公開)からTOEICテストのスコア別に平均年収を抽出して作成 対象・期間:2022年9月~2023年8月末までの間に、dodaサービスに登録した20~65歳の男女約63万人
※3 TOEIC Listening & Reading Testでの集計。
――「やりたいこと」を実現するための転職、つまり「キャリアチェンジ」においてはどうでしょうか。
桜井中途市場で一番重視されるのは、やはり「経験」です。そういった意味で、未経験転職は、やはり不利な部分がある一方で、経験以外で大切なものとして「学ぶ意欲」と「ポータブルスキル」が挙げられます。ポータブルスキルとは、業種や職種が変わっても発揮できる力のことです。例えば、営業職で培ったコミュニケーション力や交渉力は、別の職業でも生かせますよね。英語力もこうしたスキルにあたります。TOEICは「学ぶ意欲」と「ポータブルスキル」、両方の証明にもなると思います。前述したように労働力不足の影響もあり、多くの企業は現在、採用条件を緩和しています。TOEICのスコア、そして英語に対する学習意欲は、キャリアを切り拓いていくうえで、今後さらに重要な要素の一つとなっていくのではないでしょうか。