「将来はオーナーになりたいです」
パキスタン出身、20歳のラファカット・ゾハブさんは、クルーの採用面接時にその思いを伝えた。身近に起業家が多い環境で育ち、自らビジネスを起こすことは子どものころからの夢だった。母国では医学を学んでいたが、ITの道に転向。コロナ禍で留学先が限られるなか選んだのは日本。初めの2年間は山口県内の日本語学校に通いながら、スーパーや居酒屋、焼き肉店でのアルバイトを経験した。
そして来日から3年目の2024年、東京に来て念願のITビジネスの専門学校に入学。板橋区にあるこのローソン板橋赤塚新町一丁目店は、自宅近くのなじみの店だ。いつ来店しても明るく清潔で、商品棚はビシッと整えられていて美しい。その様子に惹かれ、日本語をもっと上達させたいという思いもあり、クルーに応募した。
学校は午前中で終わるため、アルバイトがある日は13時から21時まで就寝。その後、22時からの夜勤に励む。この生活にもローソンでの仕事にも「すぐに慣れました」。働き始めてから日本語も格段にうまくなったという。今学んでいるITのスキルは、オーナーになったら店の管理に生かすつもりだ。
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「オーナー(写真右)に教えてもらうことは、すべて自分の成長につながるからうれしい」とゾハブさん。目下の目標は、2026年3月の卒業までにすべての仕事と難しい漢字を覚えること
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まじめさはお墨つき
お客様からも感謝される
ゾハブさんの熱心な仕事ぶりは、店長の伊藤友香子さんもオーナーの長谷部龍輔さんも高く評価している。
「とにかくまじめ。退勤時間になると必ず店内が完璧に整っているか見回ってから、次のクルーに交代する。クルーのお手本のような人」(伊藤さん)
「面接時に受けたまじめな印象のとおり、わからないことは積極的に質問するので成長するスピードが速く、新しいこともどんどん吸収していきたいという意欲が高い」(長谷部さん)
お客様からもたびたび感謝される。コーヒーマシンやセルフレジの使い方を丁寧に説明し、「日本語がお上手ですね」と褒めてもらう機会も多いという。
「足の不自由なお客様が毎朝、来店されるので、カゴを持って一緒に商品を取りに行っています。そのお客様がいつも買っているパンを前もって袋に入れておいて、すぐにお渡しできるように用意することもあります。お客様からは『いつも助けてくれてありがとう』と言ってもらえます。どうしたらお客様に喜んでいただけるかを考えて働いています」(ゾハブさん)と笑う。
自分の店を持つ未来を
思いながら仕事に励む
人手不足が叫ばれる今、コンビニエンスストア業界では外国人スタッフの協力は欠かせないものとなりつつある。長谷部さんも、この板橋赤塚新町一丁目店を含め5店舗を経営しているが、各店とも外国人クルーが活躍している。文化の違いや言葉の壁があり、日本語独特のニュアンスを正確に伝えることは難しいが、そこは実際に働く姿を見てもらうことで感じてもらえるよう、密なコミュニケーションを取ることでカバー。「意欲の高い方であれば、国籍問わず採用したい」と語る。
面接時に「オーナーになりたい」と言われた経験は、日本人応募者も含めてゾハブさんが初めて。長谷部さんは「うれしい。心から応援したいし、私が持っているものは何でも教えたい」と、ゾハブさんの夢を後押しする。
ゾハブさんの好きな仕事は、品出しや売り場づくり。
「お客様が買い物しやすいよう、丁寧にフェイスアップ(ラベルなどを前面に出す作業)をします。将来、自分の店を持ったときも、それは必ずしないとならないこと。今からそのつもりで仕事をしています」(ゾハブさん)
長谷部さんや伊藤さんからは「お客様にとってきちんと整えられた売り場は、特別なことではなく普通のこと。さらに満足いただくためにはどうすればいいか、日々考えなければならない」と教えられた。ゾハブさんはそうした経営哲学を言語の壁を越えて、心でしっかりと受け止めながら業務に当たる。
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売り場づくりが好き。他のクルーの売り場を見て勉強することも。取材の合間もさりげなく商品棚を整えていた
ローソンには、ナチュラルローソンやローソンストア100もあり、他チェーンと差別化できていることもオーナーを目指すうえで魅力を感じている。どういった店を持つか、夢がふくらむ。
「ローソンの仕事は自分のためにもなるし、近くに住んでいる人の役にも立つ。オーナーになったら、たくさん店舗をつくるよりも、少なくてもいいから一店一店きれいでいい店をつくりたい」(ゾハブさん)
長谷部さんからかけられた言葉で一番印象に残っているのは、「失敗を恐れず新しいことにチャレンジしてほしい。チャレンジしないと何もできない」という言葉。
異国の地で小さなチャレンジを積み重ねながら、ゾハブさんは大きな夢に向かって進んでいく。