11月27日実施のスピーキングテストで会場に入る中学生たち
11月27日実施のスピーキングテストで会場に入る中学生たち

 都立高入試に導入された中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)で起こる「逆転現象」が、受験生を不安にさせている。不受験者が受験者の点数を上回る可能性があるテストは、「公平な入試」と呼べるのか。AERA 2023年1月30日号の記事を紹介する。

【図表】「逆転現象」の具体例はこちら

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 今、受験生を不安にさせているのが、「逆転現象」である。稲城市在住の中学生の保護者(40代)はこう語る。

「『逆転現象』は、今回の入試制度の不備。都立高入試全体への不安にもつながっています」

「逆転現象」とは、不受験者に「仮のESAT-J結果(以下、仮結果)」を与えることで、不受験者が受験者の点数を上回り、合否の逆転が起こる可能性があることだ。そのカラクリとは、どのようなものなのか。

■1点差が4点差になる

 都立高校に英語教諭として15年間勤務し、シミュレーションを用いて「逆転現象」の検証を続けている英語講師の松井孝志氏は、そもそもESAT-Jで付与される「グレード点」が問題だと指摘する。

 最初100点満点だった「生スコア」は、AからFまで六つの「グレード点」に換算される。Aは20点、Bは16点と4点刻みでFは0点。例えば80~100点を取った生徒はAで20点が与えられ、一方、79点だとBで16点となる。つまり100点の生徒が80点の生徒に対してつけた20点の差は、換算後には「0点差」となり、79点の生徒の80点の生徒に対する1点ビハインドは「4点差」に広がるというのだ。1点が合否を分ける入試において、換算方法でその差がなくなったり増えたりするという。

「不受験者が多いことも問題です。ESAT-Jの制度上、受けたくても受けられない生徒が一定数いる上に、受験予定だった生徒の1割がテストを欠席したといわれています」(松井氏)

 ちなみに不受験者に与えられる「仮結果」は、「他の受験生の結果」から算出される。つまり不受験の場合、合否は「他人の点」によって決まるというのだ。いったいどういうことなのか。

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