「都外や海外からの受験生が多い一部の高校では、順位の変動が大きくなり、カオスです」

 公表されている過去のデータによると、「都内公立中出身者以外」の合格者に占める割合が、9~15%にのぼる高校もある。彼らにはESAT-Jの受験資格がない。不受験者を12.5%とした松井氏のシミュレーションでは、最大で16位ほどの入れ替わりがあったという。

「少なく見積もっても5人~10人分の入れ替わりがあり、そしてそれは合否ラインでも起こるでしょう」(松井氏)

 倍率が2倍ほどの学校では、合否ラインに受験生が集中する。そこで「逆転現象」が起きたとしたら……。ちなみに「逆転現象」が生じる可能性は、都教委も「入試改革を考える会」の公開質問状に対して、「起こり得ないと限定するものではないと考えます」と回答し、認めている。

 都立高校側は、どう考えているのか。日比谷高校校長の梅原章司氏に意見を聞くと「(ESAT-Jについては)よくわからない」と回答。都教委は一貫してインタビューの申し出には応じない。

 今回ESAT-Jを受験した文京区の中学3年生は言う。

「自分の努力が足りなくて落ちてしまったなら仕方ないと思える。しかし自分では自信があったのに、結果がダメだった場合『不受験者がいたからか?』と思ってしまう。これでは結果に納得することはできない。入試なのだから、平等に点数をつけてほしい」

 そして「逆転現象」が起きたとしても、受験生にそれを知る術はない。

 受験生が望んでいるのは、透明性のある公平な入試。ただそれだけだ。(ライター・黒坂真由子)

AERA 2023年1月30日号より抜粋