「幼い頃からそばに農業があった」 脱サラして有機農家に、植物や動物と共生する農業を目指す

仕事

2022/08/07 08:00

オーガニックファーム所沢農人 代表 川瀬悟(かわせ・さとる)/1980年生まれ、神奈川県出身。2007年、北海道大学大学院修了。森林生態学や多様性生物学などを学ぶ。民間会社、農業研修生を経て、18年4月、埼玉県所沢市で新規就農。現在に至る(撮影/写真映像部・東川哲也)
オーガニックファーム所沢農人 代表 川瀬悟(かわせ・さとる)/1980年生まれ、神奈川県出身。2007年、北海道大学大学院修了。森林生態学や多様性生物学などを学ぶ。民間会社、農業研修生を経て、18年4月、埼玉県所沢市で新規就農。現在に至る(撮影/写真映像部・東川哲也)

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2022年8月8日号にはオーガニックファーム・所沢農人の川瀬悟さんが登場した。

*  *  *

 見わたす限り畑が広がる。足元に伸びる雑草の上をバッタが跳ね回る。「雑草も昆虫も、生きているからにはなにか役割があるんですよ」。そう話しながら、濃い緑に色づいた自慢のキュウリを摘み取っていく。

 農薬は使わない。雑草や昆虫の存在を受け入れ、共生したいからだ。化学肥料には頼らない。生き物の力を最大限に生かしたいから。

 もちろん雑草や虫は農家にはやっかいな存在だ。雑草は放っておけば大きく伸びて、野菜の成長を阻む。雑草が虫を寄せ付け、虫が野菜を食べてしまうこともある。

「だったら工夫すればいい」。雑草が小さいうちに上から土を盛る。雑草は負けずにまた顔を出す。それならばと、また土をかぶせる。土を盛るタイミングと回数を工夫すれば、雑草が野菜より大きくならずにすむとわかった。

 生物と生物、生物と環境はすべてつながっている──。高校生の時に出合った一冊の本がきっかけで生態学に魅せられ、大学、大学院で生態学を学んだ。有機へのこだわりの原点だ。

 大学院修了後、就職した物流業界はやりがいがあり、充実していた。大きな仕事を任せてもらえるようになり、達成感も覚えた。ただ、その気持ちの隙間になぜか「本当にやりたいことは何か」という思いが浮かんだ。

 振り返るといつもそばに農業があった。幼い頃から家庭菜園で家族と一緒に野菜を育てた。高校、大学では自主的に有機農家を訪ね、農作業の手伝いに夢中になった。思い返すと、あの頃の野菜の味が口の中に広がった。

「おいしいものを作りたい」。有機農業への挑戦が始まった。1年目は不安で、恐怖すら感じながらの生産と収穫だった。今では1.6ヘクタールの畑で、150種類の野菜を育てる。

 週末には都内や地元を中心に、マルシェと呼ばれる屋外市場で収穫した野菜を販売する。リピーターには子育て世代が多く、「子どもの野菜嫌いが直った」と言ってもらえることが増えた。「どうやって食べるのがおいしいか」と尋ねるお客さんに答えられるように、レシピを考える。

 自然とのつきあいに休みはないが、「手をかけた分だけ返ってくるのが農業。シンプルでおもしろいんです」。

(ライター・浴野朝香)

AERA 2022年8月8日号

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