写真説明:京丸園での実話をもとにつくられた絵本『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン』(合同出版)。「障害」は自分側にあり、自分のかかわり方や声のかけ方を変えることでその「障害」が取り除かれることに気づかされる/深澤友紀撮影
写真説明:京丸園での実話をもとにつくられた絵本『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン』(合同出版)。「障害」は自分側にあり、自分のかかわり方や声のかけ方を変えることでその「障害」が取り除かれることに気づかされる/深澤友紀撮影

 少し前のことですが、ある勉強会に出席しました。講師は「ユニバーサルデザイン」(※障害の有無にかかわらず、すべての人が利用しやすいようにつくられた物や空間のこと)を知ったことから、幼稚園や小学校に通う子どもたちに、差別のない考えを広める活動を始めたという大学教授でした。

 教授がこの活動を始めた当初は小学校の教員免許が無かったため、どの学校にプレゼンに行っても「教師がいるのだから教師が教える」と言われてしまい、直接子どもたちにユニバーサルデザインについて伝える機会が無かったそうです。通常学級の先生は障害のある子どもに接したことがない場合も多く、伝えたいことが伝わらず苦戦したとのことです。そこで、自分が教壇に立たなくても伝えられる方法を考え、冊子を作って地域の小学校へ届けたところ、とても好評で、それ以降講座の申し込みが増えたそうです。

「差別なく」という内容でプレゼンをすると、どうしても「暗い話」や「重い話」と捉えられてしまうのかもしれませんね。

 でも実際には、感情論よりも科学的な内容であることも多いのです。

 今回はこの先生のお話を参考に、さまざまな視点から障害について書いてみようと思います。

障害者を20人以上雇用する農園

 この勉強会では、ゲストスピーカーとして、静岡県浜松市で農業を営んでいる京丸園の鈴木厚志さんの講義もありました。

 その会社では、毎年1人、障害のある社員を増やすことを目標にしているそうです。

 障害者を雇用したきっかけは、27年ほど前、知的障害のある男性を面接で不採用としたところ、ご家族から「給料はいらないから働かせてほしい」と頼まれたことだったそうです。

 結局、その時は採用には至らなかったようですが、その後も同じように無給でも働きたいという方が複数面接に来て、「働く=お金を稼ぐ」という概念だった彼は不思議に思ったそうです。そしてある保護者に、面接に来た背景をいつもより深く聞いてみたところ、「以前は多く見られた町工場がほぼ無くなり、コンビニやチェーン店などマニュアル通りに動かなければならないところが増えて就職先が見つからない」という現状と、「特別支援学校を卒業した後も、子どもに社会とのつながりを持たせたい」という母親の願いを知ったそうです。

 そこで、まずは見習いとして1週間だけ通ってもらい、さらに1週間、もう1週間と延ばし、作業に慣れたところで採用したそうです。現在では、知的障害と肢体不自由、精神、発達障害等を合わせて20人以上の方が働いているとのことでした。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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