おととしの秋休み、江利川さんとぴぴちゃんはふたりで出かけた。きょうだい児は一緒に過ごす時間が少なくなってしまうので、コロナ渦以前はこうしてふたりの時間を作っていた/江利川さん提供
おととしの秋休み、江利川さんとぴぴちゃんはふたりで出かけた。きょうだい児は一緒に過ごす時間が少なくなってしまうので、コロナ渦以前はこうしてふたりの時間を作っていた/江利川さん提供

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害を持つ子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出会った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

■きょうだい児のメンタルの負担

 ここ数年、障害に関する文献や学会などで「きょうだい児」がテーマになることが増えています。きょうだい児とは病気や障害を持つ子どもの兄弟姉妹のことです。一般的に病児のきょうだいたちは、幼少期から寂しさなどの感情を抑える場面が多々あり、メンタル面での負担が大きいと言われています。

 今回は、前回に続き、きょうだい児について。我が家のきょうだい児である次女の心の変化の話です。

 私がきょうだい児という言葉を意識するようになったのは、次女が小学4年生の時でした。ちょうど彼女の育児に難しさを感じ始めた頃であり、たまたま目にしたきょうだい児について書かれた本には、我が家の環境や次女の性格に当てはまることがたくさんありました。

 小学校高学年になると、それまで私や夫に向けられていた寂しさや孤独感とは少し違う感情が出始め、友人たちから言われる「かわいそう」という言葉に敏感に反応するようになりました。

■みんながかわいそうと言う

「ママが大変なのもわかるし、ゆうのことも大好きだし、学校で『コウのお姉ちゃん』と見られるのも仕方ないと思ってる。でも、家族の話をしていると、うちだけいつも「かわいそう」と言われちゃう。自分ではそんなに不幸じゃないと思っているのに、みんながかわいそうと言うから、やっぱり他の人から見るとうちは不幸で普通じゃないのかなと思っちゃうよ」

 次女の担任だったりょうこ先生からは、度々、今の次女の葛藤はクラスのどんなにませている子でも理解するのは難しく、周りにいる大人が「大丈夫だよ」と示していくことが重要ではないかと言われていました。

 ちょうど自分の生い立ちや将来を考える授業が増えた時期でもあり「きょうだいの中で自分だけが助かった(障害が残らなかった)」という気持ちを、次女が初めて持ったように見えました。

 障害は不幸ではないと実感するには、どうすればよいのだろう……。

 私の中のこの悩みは、次女が小学校を卒業する頃まで続きました。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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中学で聞かれる「何人きょうだい?」