村上春樹ライブラリーでは、海外で翻訳された膨大な数の村上作品を手に取ることができる。各国の装丁の違いを見るのも楽しい(撮影/写真部・東川哲也)
村上春樹ライブラリーでは、海外で翻訳された膨大な数の村上作品を手に取ることができる。各国の装丁の違いを見るのも楽しい(撮影/写真部・東川哲也)

 本を読めば世界や価値観が広がる。そんな読書体験を、経営トップはどう活用しているのか。AERA 2021年11月8日号は、マネーフォワードCEOの辻庸介さんに、自身と本の関係、自分の中で「両極」に位置すると感じる本を含むオススメ5冊を聞いた。

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 本は、少しでも読みたいと思ったら必ず買う、と決めています。すごく安いなと思って。千円ちょっとで、その人が人生で学んだことを全部学べるわけです。ものすごく費用対効果がいいし、リターンも大きい。

 私生活では小説も好きですが、元々ソニーからマネックス証券に行ったので、お金とIT、そして経営が主軸。その分野の本をひたすら読みまくってきました。最近は経営には左脳だけじゃなく右脳が必要だと感じて、リベラルアーツを学んでいます。それで、杉本博司さんの写真集『瑠璃の浄土』を挙げました。ビジネスだけをやっていると発想がどんどん狭くなる感じがして。プロダクトを作る時には機能的便益だけでなく情緒的便益も大事。機能性じゃない、エモーションのところが触れる瞬間ってあるじゃないですか。ジョブズがiPhoneを出した時も、京都で研ぎ澄まされた禅の世界を体験したのがヒントになったと言われますよね。世の中のいろんなことをインプットすることで発想が広がる。だから美術館に行くのも好きです。

 本を読むときはメモしたり線を引いたりしながら、自分の考えを整理していきます。対話しながら読むというか、コーチングに近いイメージです。そうやって思考を深めていく感じが好きですね。最近は読書体力が減っているのが悩みです。すぐスマホを見ちゃうから、集中力が持続しない。せっかく深い思考に入っていったのに戻ってしまうんです。スマホを見なくていいように、お風呂に入りながら読んでいます。鉛筆持って、タオルとペットボトルを置いて。

 社内合宿や研修でも、ベースとなるナレッジを共有したいので、課題図書を設けて読んでもらっています。講義なら何十時間もかかる内容が本1冊で学べるから。経営に関する本が多く、例えばユニクロの柳井正さんの『経営者になるためのノート』もよく課題図書にしています。

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