AERA 2021年9月27日号より
AERA 2021年9月27日号より

 気づけば、藤井は昨年に史上最年少17歳で初めてタイトル戦に登場して以来、まだ一度も敗退することなく、5回連続で番勝負を制覇したことになる。信じがたいような話でもあるし、また藤井の実力なら納得できるような話でもある。

 ともかくもそうした例は戦後にはない。時代背景がまったく違う戦前、戦中にまで比較の対象を広げれば、わずかに木村義雄が実力制名人戦開始以来5連覇したという例があるだけだ。

 もし藤井が今期竜王戦も制すれば、数字上ではその木村名人の記録をも上回る。デビュー以来無敗29連勝のように、タイトル戦初登場以来の連続制覇記録も伸びていくことになるのか。羽生と並ぶ七冠制覇、そして将棋史上初の八冠制覇はなるのか。藤井自身が記録に興味を示さない一方で、周囲のフィーバーはますます過熱していくことだろう。(ライター・松本博文)

AERA 2021年9月27日号より抜粋

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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