■ワクチンの種類と特徴

 世界ではすでに50億回以上の接種が行われた。米国のように、ワクチンはあっても、接種したくない人が一定数いる国とは異なり、日本の場合はまだ、接種希望者に対し、ワクチンの供給が不足している状態だ。

 国内で使われている3種類のワクチンのうち、最初に接種が始まった米ファイザー社・独ビオンテック社製と、次に始まった米モデルナ社製は、m(メッセンジャー)RNAワクチンだ。新型コロナウイルスの表面にある突起状のたんぱく質(Sたんぱく質)の「設計図」になるmRNAが脂質の膜に包まれた状態で入っている。

 一方、アストラゼネカのワクチンは、増殖しないよう無毒化したサルのアデノウイルスの殻に、Sたんぱく質のDNAを入れたものを打つ。アデノウイルスがDNAを体内の細胞に運ぶ役を担うので「運び屋」という意味の「ベクター」から、「ウイルスベクターワクチン」と呼ばれる。

 3種類以外に、米ジョンソン&ジョンソン社も特例承認を申請中だ。これもウイルスベクターワクチンで、ヒトのアデノウイルスを使っている。1回の接種で済むという特徴がある。

 それ以外に、米ノババックス社製のワクチンも国内で臨床試験が行われており、武田薬品工業が原液から製造する契約を結んでいる。今後、米国で緊急承認が下りれば、国内で特例承認の申請が出されるとみられる。遺伝子組み換え技術を使ってSたんぱく質を作り、ウイルスを模した形のナノ粒子にしたものがワクチンに入っている。「組み換えたんぱくワクチン」だ。

■国産は早くて来年以降

 国内企業が開発するワクチンは、早くても来年以降の特例承認申請になるとみられる。mRNAワクチンや組み換えたんぱくワクチンのほか、新型コロナウイルスの増殖性や毒性を無くした「不活化ワクチン」、Sたんぱく質のDNAが入っているDNAワクチンについて、臨床試験が行われつつある。

 世界保健機関(WHO)が緊急承認したワクチンは、日本が使っている3種類に加え、ジョンソン&ジョンソン社製、中国のシノバック社製(不活化ワクチン)、シノファーム社製(同)の計6種類だ。

 接種が進むにつれ、副反応についても知見が蓄積されてきた。接種した部分の痛みやはれ、発熱、悪寒といった多くの人に起きる副反応は、臨床試験でも報告されていたものが多い。

 防衛省職員などを対象に、モデルナのワクチン接種後の副反応について調べた厚生労働省研究班の調査では、2回目接種後に60%以上の人が38度以上の発熱を経験しており、海外の臨床試験の約16%よりかなり高率だ。若い人ほど発熱を含めて副反応が強く出るため、接種を受けた人の中に自衛隊員ら比較的若い人が多かったのが一因の可能性はあるが、理由はまだよくわかっていない。

 また、まれではあるが、他のワクチンでも起こるため発生が予想されていた、ワクチン成分に対する強いアレルギー反応アナフィラキシーは、8月8日現在、専門家によりワクチンが原因と判断されたものが、100万回接種あたりファイザー社製は4回、モデルナ社製は0.7回起きている。

■接種のメリット大きい

 接種人数が増えるにつれ、想定外の非常にまれな副反応も報告されるようになった。

 そのひとつは、アストラゼネカのワクチン接種後に起きる副反応だ。まれな種類の血栓(血の塊)が生じたり、逆に血栓を溶かす血液中の成分が大量に出過ぎて出血が止まらなくなったりして、亡くなった人もいる。接種により体内で起きる免疫反応が原因ではないかと考えられている。

 厚労省によると、海外では接種10万~25万回につき1件ほどの発生が報告されているという。比較的若い女性に多いことから、国内ではアストラゼネカのワクチンの接種対象は40歳以上だ。欧州医薬品庁(EMA)は、アストラゼネカのワクチンを接種した後に息苦しさや、胸の痛み、足に汗をかく、持続的な腹部の痛み、頭痛や視界がぼやけるといった神経的な症状などが出たら、すぐに医療機関を受診するよう呼びかけている。

 また、mRNAワクチンの接種後にまれに、心臓に炎症が起きる心筋炎や心膜炎が起こることもわかった。米疾病対策センターによると、全体では発生頻度は接種100万回あたり4回と低いものの、若い男性ではその頻度が高く、2回目接種から7日以内の報告でみると、12~17歳の男性は100万回接種当たり62.8件、18~24歳の男性で同50.5件だった。ただし、ほとんどの人が軽症で、回復している。

 血栓や出血、心筋炎や心膜炎は、新型コロナウイルスに感染しても起こる。WHOも欧米各国も日本政府も、「ワクチン接種によって重症化を防ぐといったメリットの方がはるかに大きい」と、接種を推奨している。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

AERA 2021年9月6日号より抜粋