「彼らは現場で働くプロです。本来なら、見れば自分が何をすべきかイメージができる。でも福島第一原発はそれができない現場でした。そこから彼らは自分のキャリアや技術を手掛かりにして試行錯誤し、自分がどういう仕事をして、どんな役割を果たしていけるか考えていったのです」

 福島第一原発における廃炉の目標は一応40年後と設定されたものの、確実な見通しは立っていない。

「“イチエフ”と呼ばれるその現場では、今まで原子力に関係なかった人や地元で被災した人など、さまざまな背景を持つ人々が働いています。立場によって見えてくるものも全然違う。じゃあ僕はどういう風景を見いだしていけば良いのかと考えた時、『働く』というテーマが出てきました。廃炉の現場は『働く』という普遍的なテーマが象徴的に現れる場所だと感じたからです」

 この本では一章を割いて、事故後に東京電力に入社した人々の話を取り上げている。新卒入社組、転職組と立場は様々だが、あえて加害企業に入社した思いは新鮮である。

「原発の運転員には仲間を震災で失った人もいます。彼らが当時いなかった社員に事故のことを伝えていく姿には『彼らを忘れてほしくない』という思いを感じました。こういう事故は何度でも原点に返って確認しておかないといけないものだと思います」

 私も同じように原点に返らなくてはなるまい。それを感じさせてくれた本である。(ライター・千葉望)

AERA 2021年5月17日号